潜伏Ⅴ
その後は魔物などには遭遇することなく、馬の健脚に任せるまま道を進んだ。俊二の言った通り、勇輝の腕時計が十五時を示す手前で、宿場の様子が見えてくる。
「こりゃ酷え」
近づくにつれて、その村の全貌が明らかになってきた。
元々は主要な街道から外れてはいるものの、宿場の名を冠するだけあって、それなりには栄えている。場合によってはこちらの方が趣があると感じる人もいたかもしれない。
しかし、多くの建築物が被害を被っているのは明らかで、無事な建物を探す方が難しそうだ。ある旅籠は柱が折られて一階部分が潰れており、二階が地面へと降りてきている。またある木賃宿は未だに煙が燻っているようで、何とかして鎮火させようと水を木桶で振りまいている人が見えた。
勇輝たちは村の入り口で馬車を止めて、近くの村人へと近寄る。
「あの……すいません」
「あ、あぁ、なんだい? 旅の方のように見えるが……もし手が空いていたら助けてもらえんか。なにしろ、こんな有様だからな」
顔に煤をつけ、小袖の端は焼け、肩を落とした男が力なく呟いた。
彼が見る先には大小様々な木材や瓦の破片が飛び散っている。とてもではないが、まともに歩けるような道は広がってはいない。
「それは構いませんが……ここで一体何があったんですか?」
「俺にもわからん。悲鳴が聞こえたと思った次の瞬間には、ここの建物が崩れてきたからな」
奇跡的に助かったのだろう。彼が示した建物は見る影もなく潰れ、人が下敷きになって生きていられる隙間など想像できないほどであった。勇輝たちが唖然としていると、真っ先に我に返った隆三が尋ねた。
「冒険者ギルドもここにはあったはずだ。何故、信号弾の一つも上がっていない?」
「ぎるどは確かにここにもある。だけど、ここ数日は冒険者のぼの字も見ないほど人がいなかったんだ。何でも水姫様のお膝元で大きな事件があったと聞いて、そっちに行ってしまったらしい。残ってた人たちも雛森村の方で依頼がたくさん出てるっていうんで出てっちまった」
まだ、目の前の現実を受け止め切れていないのか、男の表情は呆然としたままだ。
「そうか。我々もできるだけのことはしよう。最後に一つ、ここにこれくらいの背丈の異国の娘が来なかったか? 髪の色は赤で、力だけなら俺よりも強いかもしれん」
「すまない。俺にはわからん。何せ、ここを這い出てきたのが、ついさっきのことだからな」
「わかった。ありがとう」
隆三はそれだけわかれば十分だ、と勇輝たちへと目配せして前へと進む。
足元の瓦礫で躓かないようにするが、それでも足を置いた瞬間にズルリと滑ってしまいそうになる。
「水姫様ってことは、海京だよね。もしかして、土蜘蛛のことかな?」
「そうかもしれないな。ここと同じように宿場の大半が吹き飛んだんだ。新しく門や柵を作るのには人手がたくさんいるだろうし……」
単純に瓦礫を退けるだけならば、それでもいいだろう。だが、家を建てるとなると、大工のような専門職の出番だ。冒険者たちが向かった理由としては、柵などの防衛設備が復活するまでの警備としてだろう。民の命が懸かっている以上、冒険者ギルドも褒賞の出し惜しみはしないだろう。
「おまけにあっちには暴れ柳もいたり、新しいダンジョンが発見されたりで色々と忙しいのは間違いない」
「そっか、すっかり忘れてたけど、そんなこともあった――――」
ふっと桜の姿が勇輝の視界から消えた。思わず体を硬直させた勇輝だったが、すぐに視線を下へと向ける。どうやら、足元の瓦礫が崩れて尻もちを着いたようだった。
「いったいなー」
「ほら、大丈夫か? 油断してると怪我するぞ」
勇輝は涙目になる桜へと手を差し出す。桜もそれに捕まって体を起こした。お尻を擦りながら足に怪我がないかを確かめる。
「あ、ちょっと擦りむいてる」
「これくらい大丈夫。それよりも隆三さんについて行かないと」
「わかった。それじゃ行こうか」
勇輝は手を握ったまま歩き出す。心なしか鼓動が早くなった気がするが、それは桜の手の柔らかい感触に今更気付いてしまったからだろうか。勇輝は桜に悟られないように少しだけ顔を逸らしながら進んだ。
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