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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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迷宮入りⅡ

 最初にどのパーティが中に入るのか、という点を議題に上げたのが、髭面の男のパーティだ。刀一人、槍一人、弓一人という物理攻撃に偏ってこそいるが、距離のバランス的には近・中・長と揃っている。

 それ以外の二つは最初の一歩が危険だと判断したらしく、それぞれが一番最後を希望した。中に入った後は一本道だろうが、別れていようが各自での探索になる。それだけ彼らが慎重なのだろう。

 安全を最優先と言うことで第一階層より下には降りないという取り決めもした。その分、探索時間は確保できるので、急ぐ必要がないとも言える。その代わり、見つからなかったら久義の安否は不明のままということと同義なのだが。


「じゃあ、そちらの三人が一番最初。次に俺たち、後の二つは銭投げの表裏か何かで決めてくれ」


 隆三が言うと、それぞれの代表が出てきて、コイントスを行い始めた。

 それを尻目に勇輝はダンジョンの扉を観察する。扉の模様はどこからどうみても炎にしか見えず、したがって、中にいる魔物も火に関するものだと予想した。

 問題はどのような敵が出るかだ。ゲームではドラゴンやケルベロスといった生き物が炎を吐いているようなイメージがあるが、日本の妖怪で火に関するものはあまり想像がつかない。


「なぁ、桜。この国だと火に関する魔物はどんなのがいるんだ?」

「うーん。私もこっちではダンジョンに潜ったことがないから、あまり詳しくはないんだけど……。基本的に火自体が襲ってくるって感じかな。生き物というよりは、魔法自体が動いているというか」


 形ある物として認識できるのは輪入道という炎の車輪の中央に顔がある魔物くらいだが、そんな魔物は怪談の中だけで実際に見たり、倒したりしたという話は聞いたことがないようだった。


「ファンメルだとフェニックスが有名だけど、あちらでもあんまり聞いたことはないかなぁ。いたらスゴイ目立つだろうし」

「確かに。体が火でできてるような魔物がたくさんいたら、今頃、森や草原が火事になって軍が出動していそうだからな。そうなると、一体どんな敵がいるんだろう」

「二人とも、話をしてるところ悪いけど、そろそろ出発みたいだよ」


 ペネロペが勇輝と桜の肩に手を置いた。二人が首を傾げている内に、パーティの順番が決まったようだ。既に髭面の男が仲間の刀使いに扉を開けさせようとしていた。

 ゴリッと擦れる音が響いていくと、少しずつ扉が開き始める。やがて、二つの扉の間に隙間が見え、中の様子が露になろうとしていた。


「――――あっ」


 勇輝の目の前に急に大きな手が現れた。自分の腕を広げきってもまだ足りないほどの大きさ。それが自分の頭の上から、浜の砂を掴むように迫って来る。

 思わず左手が腰にある刀へと伸び、鯉口を切り――――


「おい。どうした?」

「――――!?」


 直後、後ろからかけられた隆三の声に勇輝は、はっとした。

 次の瞬間には、目の前まで迫っていた手は消えており、完全に開ききった扉とその先にある赤茶けた通路が目に飛び込んで来た。


「……お前、まさかお守りを持って来たとかじゃないよな?」

「あ、あの……その……はい、まだ、ここに……」


 勇輝の返事に正司は当然、隆三も呆れた顔で頭に手をやる。あれだけ危険だという話をしたのに、持ってきているとは思わなかったようだ。ただ勇輝は勇輝で、理由はわからないが、強くならなければいけないという意識がある。

 そこは隆三たちとの認識の差なのだが、勇輝も流石に不味いということは感じていた。


「まぁいい。今ので当分は効力を発揮しないはずだ。ほら、さっさといくぞ」


 既に前にいた三人は広間のような部屋の中へと進んでおり、その背中が小さくなり始めていた。このまま、立ち止まっているわけにもいかないので、勇輝は言われたまま前へと歩を進める。


「(――――でも、今までと違って、見えたのは魔物の腕みたいなやつだったけど、本当にお守りの効果だったのか?)」


 僅かな不安を胸に抱いたまま、勇輝の足が外と中の境界を跳び越えた。

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