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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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山狩りⅥ

 そうしている内に草木がやがて少なくなり、緑から褐色へと色が変わり始める。鉄穴流しの跡地に近づいているからだろう。

 鉄穴流しは水路に斜面を切り崩して放り込み、水に流されていく過程で岩石や泥と混じった砂鉄を分離させる方法だ。最終的に分離した砂鉄の割合は八割近くにまで高められる。


「ここのは大分古いやつで爺さんのそのまた爺さんくらいの頃に使ってたらしい。何せ山の高さが半分になったなんて言われてるらしいからな。どれだけ取ったんだって話だ。今でも時々、悪影響が出てないか見るんだそうだ。まぁ、そのおかげで多少は通るのにマシな道になっているんだが」

「それで? 何で廃れちまったんだ?」

「山が平らになると魔物が都に来やすくなるって話が持ち上がったんだと。加えて、砂鉄を流す先にあったたたら場が全焼しちまってな。どうせ建て替えるなら、別の所に採掘する場所も移した方が楽だろうってなったんだ」


 結果、まだ砂鉄は残ってはいるものの、今は誰も寄り付かなくなってしまった。その話を聞いてアンガスは複雑そうな顔をする。


「運の良いことに建設中に迷宮が発見され、そこからは体に鉱物を含む魔物が現れたっていうから国は大喜び。そっちでいうゴーレムみたいなやつらを倒して、資源を得られるもんだから国は諸手を上げて喜んだ。何せ、山を崩さなくても無限に湧いてくる魔物が資源なんだからな」


 隆三もまた微妙な表情を浮かべる。

 魔物を倒すための武器を作る鉄を求めているのに、その鉄を魔物からでないと奪えない生産体制にしてしまったことが彼にとっては矛盾と感じられたからだろう。今でも迷宮は攻略次第破棄すべしという不要論と世に役立てるべしという活用論が流れ、未だに議論されている。少なくとも、日ノ本国やファンメル王国では活用派が主流で、実際に多くの利益を得ていると言っていい。

 隆三の視線は手に持っている自分の弓へと注がれていた。彼にも何かしら思うところはあるのだろう。その視線は、若干の憂いを帯びていた。


「隆三さん、そろそろ目的の場所ですが、何か様子が――――」

「――――止まれっ」


 全員に聞こえる範囲の声で呼びかける。

 直後、遠く離れた場所で不自然に空間が動いた。木の幹が動いたように見えたが、それは目を凝らすと三メートルを軽く超える蟷螂が鎌を揺らしたからだった。


「でっか……」

「メスの蟷螂だね。オスより一回り大きいとは聞くけど、魔物だとあんなに違うんだ……」


 勇輝はただ衝撃を受けるしかなく、桜はどこか興味深そうに観察していた。それは他の者も一緒だったようで、アドルフはメスの背中に一回り小さいオスがいることに気付いた。尤も、その頭部は千切れており、既に息絶えているが。


「……あれは、ちょうど産卵中だな。運がいい、今なら端によって通れば襲われずにやり過ごせる」

「何を言ってる。逆だ逆」


 アドルフが蟷螂の様子を即座に見抜き、進もうとした矢先。隆三が矢を番えて撃ち放つ。それもかなりの力を込めて。音速に近い速度を叩き出したそれは、蟷螂の頭部に当たった瞬間、木っ端微塵に吹き飛ばした。


「普通の虫じゃない。ありゃ魔物だ。無防備なら殺しちまった方が早い。可能なら卵も処分しておきたいところだが、それは後でもできるからな」


 ほんの一瞬の出来事だったが、魔物とはいえ子孫を残すという行為を行うことに驚いていた勇輝にとって、衝撃を衝撃で上塗りされた瞬間だった。害あるものは殺さなければならない。正しくもあり、正しいとは言い切れない自分がおり、そして、何も言わずに通り過ぎてしまうことに気持ちが落ち着かない。


「……絶対に殺さなければいけないのが、魔物、か」


 以前、ダンジョンに潜った時にドッペルゲンガーを助けたことがあった。もし、隆三と共にダンジョンを訪れたら、自分はどういう行動をするのだろうか。そんな疑問が頭を過ぎった。

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