山狩りⅤ
どの枝も草も断面が直線的で、鋭利な刃物で切られていることがわかる。それ故に日ノ本国に来て日が浅い白銀の風の三人でも、そこで何があったかが容易に想像がついたようだ。
「これ、探してる鍛冶師がやったやつじゃないか? 聞いてた話だと刀を持ってるんだろう? 昔見た刀使いが丸太とかを斬った時もこんな感じだったな」
「そうかもしれないな。正司、先を急ごう。蟷螂共も別の冒険者の所に散っているようだから、この機会を見逃さない手はない」
隆三もアドルフと同じ考えに至っていたようで、先を急ぐべきだと告げる。刀を持っていることが確実で、それでも下山できていないということは、何らかのアクシデントに巻き込まれている可能性が高いからだ。
問題は、それが強い魔物が出現したからなのか。それとも、崖などの地形上戻れない所に辿り着いてしまったからなのか。勇輝には皆目見当もつかなかったが、久義が死んでいることはないだろうと直感が囁いていた。
「蟷螂って自分から積極的に動いて狩るイメージが無いけど、何でこんなに襲ってくるんだろう」
久義が通ったであろう道はある程度分かるため、速度を若干落とすだけで進むことができた。その最中に桜がぼそりと疑問を呈する。
「そうだな。俺たちもあいつらのことは罠虫っていうくらいだからな。っていうか、嬢ちゃん。意外に虫に詳しいのか?」
「昔は山とかによく入っていたので、多少の動物や虫のことは知ってますよ? 魔物じゃない虫なら掴めますし」
「なるほど、女の子にしちゃ肝が据わってると思ったら、虫には慣れてるってか。じゃあ、この先も大丈夫だな」
感心した顔をする隆三は狭くなって弓の取り回しがきつくなったのか、矢を番えず指だけを弦にかけていた。
魔力で衝撃を全体に放ったり、矢のように放ったりすることも可能だが、魔力の消費は極力避けたいと出発前に言っていた。しかし、久義の存在の在処を見つけられたことで、隆三は多少の魔力消費は覚悟で敵を待ち構える姿勢のようだ。
自分が持っている魔力回復用のポーションの量と放てる矢の数を数えているのだろう。僅かにその顔が背中の矢筒の方へと向けられる。
運がいいことに視界はそこまで悪くなく、蟷螂が隠れている様子は見られない。同時に危険な他の魔物もいる様子はない。
「警戒は蟷螂だけじゃないとは言ったけど、ここまで拍子抜けするほど出てこないと何かあったんじゃと勘繰っちまうな」
「他に何が出るんです?」
「まぁ、ここらの山だといないんだが、熊もいればでっかい百足なんかもいる。どっかの山には大具足百足とか言うのもいるらしくてな。厄介なことにこれが龍神様の天敵なそうで、国を挙げて封印したらしい」
勇輝は聞かなければよかったと後悔した。百足やゲジゲジといった足がたくさんあり、素早く動く生き物というのは、何故あんなにも嫌悪感を抱かせるのか。動きを想像するだけで怖気が走る。
「あなたたち、よくあんな気持ち悪い奴らの話ができるわね。それよりも聞き捨てならないことを聞いた気がするんだけど、何? ここの神様って虫が苦手なの? 本当に神様?」
「あぁ、普通はそう考えるだろうな」
隆三は苦笑いしつつ、ペネロペの言葉を受け入れる。
ただ、この話は勇輝も少しばかり知識が合って、あながち否定できない話だと思った。
三上山の大百足。山を七巻き半もする巨大な百足。琵琶湖に住む龍神の娘の頼みを聞いた藤原の何某とかいう人物の矢で脳天を貫かれて退治される話を聞いたことがある。過去に存在したかどうかは定かではないが、ドラゴンやクラーケンがいる世界だ。現に先程の蟷螂がいたのだから、他の巨大な虫がいたところで驚きはしない。
「せめて、俺がいる間は目覚めてくれるなよ……」
「大丈夫だよ。そういうところは、しっかり軍が警備してくれてるから」
桜が励ましてくれるが、今までのトラブルの巻き込まれ方からすると、近い内に出会う予感がしてならない。勇輝は山ほど大きな百足を想像して、戦々恐々することしかできなかった。
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