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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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行方不明Ⅵ

 巴の実力的に言えば、そこらの魔物の大群程度なら恐れることはない。それを知っている隆三だからこそ、逃げ帰ってきたと言わんばかりの言葉に表情を変えたようだ。


「珍しいな。仮にも北御門の門弟でも力があるお前が背を向けるとは。一体、相手は何なんだ?」

「それは……その……」


 歯切れが悪くなる巴の姿に正司は思い当たる節があったのか、小さくあっと声を挙げた。みんなの視線が集まる中、正司はしまったと言わんばかりに表情を曇らせる。そんな彼を巴が睨むような視線で射抜いていた。


「構わん。俺が許すから、言え」

「その、一応、本人に許可を貰っても――――」

「――――今更だ。どうせわかることになるから、さっさと言ってくれ」


 まるで介錯でも頼むかのような巴の悲壮な声に正司は視線を彷徨わせる。逡巡した後に、振り絞る様にして声を出した。


「虫……じゃないですかね」

「「「……虫?」」」


 巴以外の三人の声が重なる。一口に虫と言っても、様々な種類がいるし、人によって蝶ですら触れないという場合もある。彼女の程度によるが、具体的な名前が出ないと疑問は解決できない。

 そんな視線に晒された為か、唇を噛みながら顔を伏せた巴。数秒の後に、蚊の鳴くような声が口から漏れる。


「……です」

「何だ。もっとはっきり言ってくれ」

「拝み虫……です」


 その言葉に桜と隆三は納得がいく表情を見せるが、勇輝だけ頭の上にはてなが複数乗ったままになる。不思議そうな顔をしていると桜がそれに気付いて、手頸から先をだらんと下げて顔の前に差し出した。


「勇輝さんも見たことない? こんな手でじっとしてる姿」

「……蟷螂(かまきり)?」

「正解!」


 よく田んぼの近くの道で何をするでもなく立っている姿を見かけたものだ。言われてみれば、両手を構えて獲物を待つ様子は神や仏に祈る姿に見えなくもない。

 しかし、蟷螂と言っても全長は片手に収まる程度、いくらわらわらと逃げてきたからと言って気持ち悪くはあっても逃げるほどではないだろう。その考えが顔に出ていたのか、桜が耳元で補足する。


「因みに一匹の大きさは、勇輝さんと同じ位だからね」

「……うへぇ」


 全高か全長かで話は大分変わるのだが、全長であったとしても相当大きい。自分の持つ刀と同じような武器を二本持った敵が集団で迫ってきたら、それは巴でなくても逃げ出すだろう。それは隆三も理解しているようで、気の毒そうに巴を見つめた。


「そうか。疲れているところ悪かったな。今は部屋に戻って休んでくれ」

「はい。お役に立てず申し訳ありません」

「いや、十分だ。お前はよくやったよ」

「ありがたいお言葉です」


 言葉とは裏腹に、その表情と足取りは優れず。その背中にはどんよりとした影があるように見えた。襖が閉じられた後、隆三は正司に耳打ちする。


「おい、後で上手いもんでも買って食べさせてやれよ」

「……経費で落ちますか?」

「この阿呆。それくらい自分で買いやがれ」


 二人の姿を見ながら桜と勇輝は笑っていたが、会話が一段落すると全員の表情が引き締まる。

 暴れ柳にカマキリの大群。雲行きが怪しくなってきたどころの話ではない。久義は一人で山を今も彷徨っている可能性がある。もし、生きているのであれば、それらの魔物から身を隠して助けを待っているだろう。


「久義さんの戦闘力はどれくらいですか?」

「鍛冶屋だから力は凄いし、出かける時は必ず一振り自分の刀を持って行ってる。魔物の一匹二匹に負ける様な爺さんじゃねえが、今の話からすると、一人で逃げ切るのは相当難しいだろうな」


 認めたくないという気持ちが滲み出ているが、現実を受け止めることは必要だ。その上で、隆三は立ち上がる。


「山狩りだ。ギルドに行って蟷螂どもを倒しに行く奴らを集めて、ついでにその足で久義の爺さんを探す。それが一番手っ取り早い!」


 人海戦術による短期決戦。四人という少ない人数では不可能と考えた隆三の判断は、冒険者たちの力を借りるという初歩的な考えだった。

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