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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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行方不明Ⅳ

 勇輝はしばし考えた後、とりあえず賛成意見を示した。

 会って間もないとはいえ、店では刀工一家にお世話になって刀を購入できたし、これからの付き合いもあるかと考えれば救助に向かうのは当然だと考える。問題は、明日に出発しなければならないという時間制限だ。

 昨夜の巫女長が話していた様子だと、年末年始に大事な行事があるらしいことは察している。まだ二ヶ月あるのに桜を呼び戻したことを考えると、準備期間が必要であることは明白だ。桜の家族としては、できるだけ早く到着することを望んでいるに違いない。


「……ギルドに依頼は出ていたりはしないんですか?」

「どうだろうな。俺たちも知ったのが昨夜だったから、どうにもわからないことが多い。ちょっと眠気覚ましがてらにギルドまで行ってみるわ。夜番の奴が何か知っていると良いんだけど」


 日ノ本国のギルドは人数こそ少ないが、深夜から明け方にかけても職員が常駐している。それもこの国特有の魔物の性質にあるらしく、それが夜になると活発に活動するというものだった。

 妖怪も魔物に数えられている現状、逢魔時(おうまがとき)や丑三時は魔物が出現しやすいとされている。また、月の満ち欠けにも応じて力が増減するなどという話もあった。

 したがって、首都のギルドはもちろん、ある程度の大きさのギルドでは、夜であろうとも対応ができるようになっている。ファンメル王国の場合は、ギルドマスターが常に常駐している為、一応は対応できるらしいが、素早さに欠けると言われているらしいとは某受付嬢の弁である。

 走って行ってしまった正司を見送った後、勇輝は悩んでもするべきことは変わらない。刀を抜いて、久々の刀の持ち心地を再度確認する。木刀とは違った緊張感に握りが強くなりかけるのを抑え、ゆっくりと刀を振り始めた。


「……まさか、また天狗が現れたりしないよな?」

「呼んだか?」

「うおっ!?」


 思いきり振りかぶった瞬間、真横からぼそりと声をかけられた勇輝は、前につんのめりそうになりながら距離を取る。そこには昨日と全く同じ姿の天狗が佇んでいた。かんらかんらと高笑いをしていそうな雰囲気を漂わせているそれは、腕を組んで勇輝の持っている刀と腰当たりを一瞥すると、軽く感嘆の声を挙げる。


「ほぉ、なかなかいい物を持っておるな。その形と雰囲気からすると(よし)の刀か」

「見ただけでわかるんですか?」

「儂も何本か作ってもらって――――げふんげふん、いや、長いこと生きてみないとわからぬこともあるのだ。若人よ」

「(……奉納してもらったと取るべきか。それとも、本当に金払って作ってもらったのか……どっちだ)」


 ただでさえ胡散臭いのに、人間っぽい挙動をされては中の正体を暴きたくなる。お面に見えると言えば見えるし、体自体だと言えばそうも見える顔を見つめた。心の底から湧き上がる衝動を押し殺しながら勇輝は天狗に尋ねる。


「もしかして、今日も散歩を?」

「それもあるが、お主の様子を見に来た、というのが主な目的だ。もし、ここにいなかったら布団から首根っこを捕まえて引きずってくるところだったぞ」


 見かけによらず、体育会系な発想に嫌な顔をしそうになったが、勇輝は寸でのところでそれを堪える。機嫌を損ねたら何をしだすかわからない恐ろしさが目の前の天狗にはあった。


「それで、今日はどんなことを教えていただけるんですか?」

「刀の抜き方だ」

「抜き……方?」


 勇輝は耳を一瞬疑った。抜き方と聞いて、真っ先に思ったのは鞘から抜くことだ。しかし、それは既にできている。そこで、天狗が言ったのは斬った後に刀をどうやって振り抜くか、ということだと考えた。

 だが、勇輝の考えは、天狗の次の一言で覆される。


「何をしている。早く刀を鞘に納めるのだ」

「え、刀なら既に抜くことができますが――――『うつけ者め!』」


 食い気味に天狗が一喝する。


「抜き方が雑だわっ。そのように扱っては刀も鞘も傷がつき、肝心の戦いで使い物にならなくなるぞ。戦う前に物の扱い方を知れ! まずは抜いて構えるまでを千回。その後、抜き打ちを千回だ! 手を抜いて早く終わらせようと思うなよ」

「は、はいっ!」


 気付いた時に天狗はおらず、汗だくになっている勇輝を見て正司が止めさせたが、その異様な光景はしばらく続き――――


「――――右手で抜くのではなく、左手で前に送って添える。左手で抜いて右手で支える。手首ではなく体で抜く――――」

「おい、正司。あいつ大丈夫か?」


 ぼそぼそと天狗に後ろから指示された内容を口に出して唱える勇輝に、隆三すらも気味悪がった。正気に戻ったのはそれから十数分後、寝ぼけ眼の桜が起きて来て、久義の話になった時だった。

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