注文Ⅳ
(ガンド――――再装填)
四発の魔弾が補充される。一度に放てるのは六発。できるだけ隙を見せないためにも弾切れだけは避けたい。
今の威力で装填するのにかかる時間は約一秒。実銃よりは遥かに早いかもしれないが、それでも相手によっては致命傷を受けかねない隙となる。
「――――なるほど、二度同じ手にかかるほど馬鹿ではないか」
低い男の声が響いた。くぐもった声で、かすかではあったが確実にユーキの耳元まで届いた。
男は軽く腕を動かして、蹴られた腕の調子を確かめると軽く拳を握る。
その手をもう一度開き、左半身を前にして構えた。左手は牽制するかのように前へ、右手は腰だめ。軽く腰を落として重心が低くなる。
相手からは肌を刺すような、焼くような、切りつけるような、圧迫するような、撫でるような――――
「はあぁ」
――――見えない空気よりも重たい質量をもった何かが、ユーキを前から向かい風のように押しつぶさんと迫る。
敵の吐き出す呼気だけで大波が押し寄せてくるような錯覚に陥りそうになった。全身が固まって動かなくなる様は、蛇に睨まれた蛙と言っても過言ではない。
「――――はあああっ!」
故に、大声を出してそれを跳ね除ける。体内に収められていたオドが体外に噴き出すのをユーキは感じた。
男は一切揺らがず、波紋のない水面の如く静観している。ただ、石畳を擦るように間合いを見定めて詰めて来ていた。
刀の間合いまで四歩、三歩、二歩……あと一歩というところで男は動きを止めた。フードの中の見えない瞳が見つめ返してくる。
一歩踏み込めば斬れるのに、その一歩が果てしなく遠い。この二日間で死ぬほど振り続けて練習したはずなのに、踏み込み続けていたはずなのに、そのやり方が頭の中から落とし穴のように抜け落ちていた。頭の中が真っ白になる。
――――ジャリッ。
さらに数センチと近寄る男の足下で湿った土と砂利が音を出す。
次の瞬間に拳に腹を貫かれる予感が脳裏に浮かんだ。振り上げたところにカウンターのように突き出される。この間合いの時点でもう勝てない。
恐怖が反射的に引き金となった。手元を上げて、刀を握ったまま――――人差し指を向けてガンドを連射する。
二、三、四発。そして五発目で最後の一発を残さなくては、とユーキは我に返った。
魔弾は手前の石畳に一発。男の足元に一発。足、腹、頭に一発ずつ放たれた。足への魔弾は膝蹴り。腹への魔弾は、そのまま足を延ばして蹴り上げる。反動で浮いた腕を上半身をひねって振り下ろす。頭部への魔弾は左腕が振り下ろされたことで粉々に砕け散った。
(――――チャンス!!)
男は体勢を崩していた。今ならば一撃加えられる。
自分の体を奮い立たせるために今一度声を上げて、上がった手元を上段へ振りかぶる。
そのまま刀を振り下ろし――――
「――――――――――――――――あ」
自分は今、何をしようとしているのか。認識してしまった。
ひと、ヒト、ひと、人、ひと、ヒト、ヒト、人!
ゴブリンやオークのような存在だったら迷わずに済んでいた。でも、目の前の敵を人間とユーキは認識してしまった。この手で生き物を斬る感触が蘇る。自分は今、人を殺そうとしている。
無我夢中で盗賊から逃げていた時とはわけが違う。化け物になったゴルドーとも違う。同じ意思をもつ人間を自らの手で殺す。目と鼻の先で、意思をもって斬り捨てる。
ここでこの男を斬れば、自分も「人殺し」の仲間入り。自分の元居た世界では許されないこと。未だ捨てきれずにいる倫理観が肉体へとブレーキをかける。
刀の勢いがほんのわずか減速した。世界がスローモーションのようにユーキの目に映った。だが、そのわずかな差がなくても結果は変わらなかっただろう。
男は刀の振り下ろされる軌道の先から瞬時に身を捻って回避する。それと同時に右拳を振り上げていた。
先ほどとは真逆、完全に死に体である。せめてその腕を防ごうと返す刀で振り上げるが間に合わない。
「――――させません!」
男の目の前にいくつもの透明な球体が出現する。ふわふわと不定形ながらも球体を維持していたそれは水。
その水はユーキには真っ青に光り輝いて見えた。その輝きをユーキは知っている。
ここで戦っていたのはユーキ一人ではなかった。胸元にしまい込まれた精霊石――――ウンディーネは、いつでもユーキのピンチに反応できるようにと機会を伺っていたらしい。
「弾けなさい!」
小さいシャボン玉のように浮いていたそれは、男の方に向かって文字通り弾けた。
ただし、その弾けた瞬間にマナの籠った水の奔流が相手を吹き飛ばす。一瞬で起こる小規模な鉄砲水。あるいは威力の低いバズーカ砲と例えてもいいかもしれない。
顔面に放たれたそれに男は左手で、その奔流を薙ぎ払う。だが、それでも再び右手がユーキへと放たれようと握りこまれた。
呆気に取られていたユーキも死を覚悟し、先ほどの迷いが頭の片隅に追いやられる。
――――殺らなければ、殺られる。その恐怖だけがユーキの背中を押した。
「「――――はっ!」」
放たれる拳と刀。一瞬の交差の後、路地裏に飛沫が舞い散った。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




