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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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行方不明Ⅱ

 不本意そうにする勇輝の顔に巫女長は再度、呆れた顔をしながら溜息をつく。それを訳せるなら「我が曾孫とはいえ、まさかここまでとは思わなかった」といったところだろうか。


「まぁ、よい。そもそもの原因は今回、あんたたちを呼び寄せた広之殿にある。儂も無関係じゃないから、多少は助言をしてやれるけど、それにも限度がある」


 先程までとは打って変わり、厳しい表情で二人を見つめていた。


「勇輝。あんたがこれから進む道は決して楽じゃない。特に今年の残り二ヶ月は地獄のように苦しく感じるだろう。目的もないまま、ただ一日一日を生き延びなければならない時がやって来る。だけど、それを乗り越えれば報われる。自分と周りの人を信じて頑張りなさい」


 具体的に何があるのかは理解できずとも、言いたいことは伝わった。未来視の魔眼で何かが見えていたのだろう。血縁者として、声をかけずにはいられなかったのかもしれない。

 勇輝は大きく頷くと、巫女長もまた頷き返した。


「桜ちゃん」

「は、はい!」

「国や家族、そういった物の為に自分を犠牲にしてまで頑張り過ぎる人たちがこの国には多い。それは長所であり、短所でもある。あんたは賢い子だから、余計に色々なことを考えてしまうだろうね。だから伝えることは一つだけ。たまには自分のことを優先して考えることも大事さね」

「……わかりました」


 勇輝とは違い、桜は迷った末に小さく頷く。その顔からは緊張というよりも不安の気持ちの色が出ているようだった。

 だが、その様子を見ても巫女長は怒るでもなく、呆れるでもなく、ただ優しい眼差しで桜を見つめていた。数秒、沈黙が部屋を満たした後、巫女長は思い出したように勇輝へと問いかける。


「それはさておき、勇輝。何か物騒な物を持っていないかい?」

「物騒な、物?」


 何だろうかと首を傾げる勇輝に、桜は小さな声と共に指で胸を示す。


「あれじゃないかな? 返し忘れたお守り。正司さんとかが後ろで言ってたけど、幻覚を見せる呪いの品なんでしょ?」

「あ、これか!?」


 慌てて胸のポケットから出すと、それを見た巫女長は三度目となる呆れ顔をする。


「また、時代錯誤な物を……人に襲われる幻覚で訓練するなら、道場で素振りなり、稽古なりしておいた方が無難じゃ。どうする? 預かっておこうか。儂でなくても軽く浄化できる程度の呪いだからの」


 勇輝はそれを巫女長へと渡そうと右手を伸ばすが、その途中で動きを止めた。

 鍛冶屋の久義は理由があってわざわざこのお守りを渡したのだ。それを確かめぬまま手放すのは気が引ける。加えて、あくまでお守りは久義の物。勝手に呪いを解くのは不味い気もする。

 右手を引っ込めて、巫女長へと勇輝は告げた。


「いや、これは俺が成長するのに必要なものかもしれないから持っておくよ」

「そうかい。あんた、それが自分のせいで厄介な状態になってることはわかってるんだろうね?」

「厄介なこと?」

「そう。今日、何度幻覚に遭ったか覚えているかい?」


 そう問われて、勇輝は一日を振り返って見る。夢の中や桜たちとギルドや鍛冶屋などを見て回っていた間、城に帰ってきた後。覚えているだけでも七回ほどは襲われていたはずだ。

 それを伝えると巫女長は渋い顔で勇輝へと言葉を返す。


「そのお守りの効力は一日二回。朝起きる時と黄昏時に起きるようになっている」

「私から見てもわかるくらい驚いてたのは、そういうことだったんだ。急に道端で飛び退いたかと思ったら、全然違うお店の中に転がり込んじゃうから私びっくりしたんだよ?」

「悪い悪い。でもそうなると、明らかに発動回数多いよな。何でだろう」


 勇輝は不思議そうにお守りを睨む。すると思わずお守りを魔眼で見てしまった。すると、勇輝の体の周りに漂っている光を吸収するような動きを見せる。


「それは周りの魔力を吸って発動する。どうやったかはわからんけど、強力な結界が周りにあるせいで、魔力が溜まりやすいみたいだね」


 その言葉に勇輝は思い当たる節があった。ファンメル王国の魔法学園で円を表す数式を契約の羊皮紙に記入したところ、本当に結界として起動してしまったことだ。あれ以来、勇輝の周りには円筒状の結界が常時展開されている。


「まぁ、それを着けたままでよいと本人が言うなら構わないか。強くなっておくに越したことはないからの」


 言葉の最後の方で巫女長の視線が桜へと向いていた。再び、桜の顔が赤く染まったのは言うまでもない。

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