行方不明Ⅰ
曾祖母である巫女長に呼ばれた勇輝は、桜と共にある部屋を訪れていた。部屋には他の巫女もいないだけでなく、隆三たちも席を外している。
勇輝と桜はここに至るまでの話を搔い摘んで巫女長へと伝えると同時に、明後日の朝にはここを出発することを話した。
「なるほどね。実家に帰るまでの護衛ね。しかし、今までの経緯を聞く限り、相当無茶な冒険をしたようだ。それなら、その回復具合も頷ける。思っていた以上に鍛えているみたいじゃないか。聞いた話だと朝から木刀を振るくらいの元気は残っていたとか」
「筋肉痛はするけど、前に経験した痛さに比べたらへっちゃらだったかな」
勇輝は一つ目の巨人に与えられた力のせいで、動く度に激痛が走る時期があった。それに比べれば確かにまともな範囲の痛みだろう。
「その力は異国の神が使っていた力のほんの一部。天を焼き尽くす雷の力。人間が扱っていい物じゃない。使えば、体か精神か。或いは魂が耐えきれずに崩壊することもある」
「そんな危ないものを渡されてたのか……」
「だが、才能があるというのも事実だろう。なければ、その程度で済んではいないだろうからね」
バジリスクを倒した時には目にも止まらぬほどの移動と高火力の攻撃を叩きつけることに成功したが、その反動として精神と肉体の感じる時間に差異が生じ、体を動かすことができなくなってしまった。才能があってそれならば、才能がないものが無理矢理使ったらどうなっていたことか。そう想像すると勇輝は身震いした。
「巫女たちの力で、その力はある程度抑え込んだ。体が慣れないまま使い続ければ、大変なことになるだろうからね。今、勇輝が使える力は身体強化と魔眼くらいだろう。あと数日もすればガンドとやらも、普通の魔法も使えるようになる。もちろん、無理して限界を越えようとすれば、それだけ強大な力が使える一方で、また大きな反動に襲われるからね。気を付けるんだよ」
「りょ、了解です」
大きく頷いた姿に満足したのか、巫女長は桜へと顔を向けた。
その横顔を勇輝が見るとかなり緊張しているように思える。灯りに照らされた表情は強張り、握りしめた拳に力が入っているのがわかった。
「まぁまぁ、そんなに固くならんでいい。巫女長なんて肩書で結界術を教えたことはあるけれど、ただの婆さんだからね」
「いえ、そんな恐れ多いです」
勇輝とは真逆。音が聞こえてきそうなほどに、大きく首を横に振って応える。その姿に、どうしたものかと困り顔になる巫女長だったが、緊張が解けることはないと踏んだようで、そのまま話すことにしたようだ。
「あんたのお父さん。広之殿には世話になっているけど、家に戻る様に連絡が来たんだって?」
「は、はい。何でも緊急らしいので……」
「そうかい。この時期ってことは……年末年始のあれ関係かね?」
その言葉を聞いた瞬間、桜の口から小さな声が上がる。すると、あっという間に顔が赤く染まっていくと同時に、目が泳ぎ始めた。巫女長は、何かわかっている様子で微笑みながら桜へと問いかける。
「こういうことを聞くのはどうかと思うけど、もう希望は決まってるのかい? それとも、成り行きに任せるかい?」
「い、いえ、そ、それは、その……、この場では、申し上げにくいと言いますか、その……」
明らかに動揺している桜の目が不意に勇輝へと向けられる。目と目が合った瞬間、電源が落ちたように桜の動きが固まった。
一人だけ状況が飲み込めずにいる勇輝もまた、どうすればいいのかと腰を中途半端に浮かせたまま、巫女長と桜へ視線を行ったり来たりさせてしまう。
「もう十月の半ば、百夜は間に合わないから、相当力をつけないと南条の犬に食われることになるからね。老婆心ながら言わせてもらうとね。伝えるには早くしておいた方がいいよ」
「な、な、な……私はその、そんなことは……いえ、そういう意味ではなく……」
「桜、言葉が空回りしてるぞ。ちょっと、深呼吸した方がいいんじゃないか?」
勇輝に言われて、大きく息を吸い始める桜。何度か、繰り返して落ち着きを取り戻すが、その光景に巫女長は若干呆れた顔で勇輝を見る。
「勇輝、魔眼はあってもそれに頼りきりだから、こういうことになるんじゃ」
「え、俺のせい!?」
思わぬところで鋭い言葉が飛んできたので面食らってしまう。どうやら、呆れていたのは混乱している桜に対してではなく、その隣の勇輝にだったらしい。
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