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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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すれ違った先でⅧ

 勇輝が鯉口を切って、更に右手で刀身を僅かに覗かせる。感覚に慣れようとしている後ろで、隆三は房義へと近寄った。


「それで? 何で今更角帯なんぞに? あの革袋みたいな吊り下げる奴でも十分だろう」

「隆三さん。刀には刀の使い方や抜き方があるって言うのは知っているでしょう。それに使える技は一つでも多い方がいいですから」

「あぁ、まぁ、あの状態よりは使い勝手は良くなるが……それだけの為にか……?」


 房義の言う「技」とやらに思い当たる節があるようだが、隆三は眉を顰める。

 構えや剣術はそれぞれの流派で磨かれていくと同時に、それに対してどのように対応するかも研究される。だが、その上で評価が二分されている技がある。

 ある者は恐ろしい技だと言えば、またある者はただの曲芸だと笑い飛ばす。隆三自身は、どちらかといえば後者らしい。


「あの兄ちゃんがソレをやるっていうなら話は別だな。尤も、その前に基本が身に着いてなかったら意味がないから、当分先の話だろうが」


 加えて、それを最も効果的に使う状況になるのは二パターンあるが、積極的に使うとなると、勇輝の置かれている状況とは相容れない。

 一方で、もう一つの使い方に関しては、有効活用が出来そうでもある。それがお守りの呪いへの対抗手段だ。


「よろしいのですか?」

「何だ、気付いてたのか」

「もちろんです。そして、隆三様が何かしら悪巧みしているのも察しました」


 巴の勘の鋭さに目を丸くしながらも、隆三は勇輝を見つめ続ける。


「まぁ、ああいう奴には体で覚えてもらった方が意外と身に着くのが早そうだからな。それに、あいつの刀の使い方に口を出す前に、どれくらいの腕前か見てみたいって言うのもある」

「巫女長からは、あまり無理をするなと言付かっていますが……」


 巴は心配そうに忠告する。

 勇輝の体は一日前に、巫女たちが全力を注いだ身体強化の術を使って数時間体を酷使していた。その結果、反動で筋肉痛になっている。

 そして、巴は知らなかったが、身体強化以外の魔法――――ガンドも含め――――は、ほとんど発動できない状態になっていた。巫女長はむしろ、そちらの方を心配しており、魔法を使おうとしたら全力で止めるようにと指示を受けていたこともあって、隆三の言葉に敏感になっている。


「わかってるよ。あの婆さんが言うんだ。()()()()()()()()()()が見えてるんだろ」


 巫女長の力は先見の力。即ち未来視の魔眼だ。そこまで念入りに言うということは、何かしらの事件に巻き込まれるということを予想している。隆三も若い頃に、当時の北御門の当主であった祖父から、その話は聞いたことがあった。

 未来視の魔眼の制限は多く。自分の望む時に見ることはできないこと。そして、見た情報を伝えること自体にも制限がかかるということだ。巫女長自身が己に課しているのか、はたまた別の理由からか。彼女を知る者たちの多くは、見た話を伝えることで未来が変わり過ぎてしまうことを防いでいるのだろうと考えているらしい。


「少なくとも、今日は戦闘はさせない方向でいいだろう。万が一、何かあったとしてもお前と正司が止めるか。割って入るかすれば収まる。必要だったら、俺の名前を使ってもいい」

「隆三さん。彼のことをそこまで気に入ってるのですか? 聞いた話だと同じ船で帰国したということくらいしか聞いておりませんが」


 帰国途中に勇輝がガンドでクラーケンの腕を吹き飛ばしたということを彼女は知らない。また、勇輝が戦闘しているところを見たこともない。それ故に、隆三が入れ込む理由が理解できていないのだろう。


「勘だよ勘。あいつは、いつか大物になるっていう俺の勘だ」


 その言葉に巴は首を傾げるが、隆三は一人納得した顔で勇輝へと近づいていく。


「とりあえず、今日は旅支度を整えるためにいろんな店に顔出すぞ。それで城に帰って、ゆっくり休む。まだ疲れが残ってるんだから、嬢ちゃんも兄ちゃんも無理はすんな」


 浮かれる勇輝はびくっとしながらも桜と頷くと、房義に礼を言って次の店に向かうことにした。

 馬車の予約に食料の買い出し、それらを全て済ませる頃には日が傾き始めていた。

 出発は明後日の朝の予定だ。勇輝は曾祖母である巫女長に、一時の別れを告げていかねばと思いながら城への帰路に着いた。

 その夜、巴と正司の下にある情報が入る。本来会うはずだった久義が行方不明になっているとの知らせだった。

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