すれ違った先でⅢ
険しい顔から一転、柔和な笑みに戻った房義に見送られ、一行はギルドを目指す。今日も今日とて、通り道は人だかりでいっぱいになり大賑わいだった。歩く時間が経過するごとに、見た目が他国の者だとすぐにわかる人が増えていく。
「桜、海京のギルドってどんな感じなんだ?」
「うーん。多分、ファンメルの王都にあるギルドを知っている人からすると地味に感じるかも。私はこっちの方が落ち着くから好きなんだけどね」
施設の内容的にはファンメルと違いはないが、それぞれの役割ごとに建物が独立している。ギルドの本館は依頼の受領と報告。その隣は納品されたものが使えるように加工したり、解体したりする建物になっている。その更に隣に行けば、依頼にも使える商品が売られていたり、納品された物から作られたポーション類も用意されていたりした。
「あ、ファンメルにはシャワーがあったけど、こっちのギルドの向かいには湯屋があるの。ランクに関係なくお金を払えば入ることができるから、他国の人は結構驚くみたい」
「お風呂にしっかり浸かれるのは、マリーみたいな貴族の家くらいだろうから、こっちに来た人は驚くどころじゃないな」
今頃、王都の学園で過ごしているだろう仲間のことを思い出しながら歩いていると、隆三がすぐ後ろから声をかけて来た。
「もしかして、マリーっていうのはローレンス伯爵の所の嬢ちゃんか」
「隆三さん、知ってるんですか?」
「あぁ、知っているといっても名前だけだからな。どちらかというと俺が知っているのは父親の方だ。歩くデタラメ。倒す方法を知っているのは軍神のマリス様くらいじゃないかって言われるほどだ」
海を越えて、日ノ本国でも化け物扱いされるローレンス伯爵。流石の勇輝も気の毒に思うと同時に、手合わせしなくて本当に良かったと心の底から思った。
同時刻、その当人が盛大なくしゃみをしたとかしないとか。
そんな話を聞く中で、ふと勇輝は今の会話の中におかしな言葉が聞こえたような気がした。
「マリス……?」
「あぁ、ファンメル国は多神教でな。その内の一つが軍神マリス様って言うんだと。魔物を倒すのに縁起がいいってことで冒険者たちの中にも信仰している奴は多い。商人だったら契約を破れないようにユースティティア様っていう神様を祀ってるんだと」
勇輝は内心首を捻る。
軍神といえばローマ神話に出てくるマルスが有名だろう。火星や男性の象徴としても知られていて、音的にも近いものはあるが、どうにも女性の名前に聞こえる。
「……そのマリスって神様。女神っぽい名前だけど、本当は男だったりする?」
「そんな訳ないだろう。いや、俺も会ったことないから知らんが、普通に考えたら女神様なんじゃないのか?」
二人が互いに困った表情を浮かべると、桜が助け舟を出す。
「マリス様は戦いの女神であると同時に、豊穣の女神でもあるって言われてるみたい。だから農業をする市民にも信仰が多くあって、神様たちの中ではかなり人気な部類に入るって」
「ふうん。じゃあ、俺の勘違いか……。神様に聞かれてたら怒られそうだな」
天罰ならば雷に打たれるイメージがあるが、幸いにも空は晴天。もしかすると、お守りの能力をのっとって幻覚で攻撃をしてくる方がまだあり得そうなどと勇輝は考えた。
しかし、そんな妄想が現実になることはなく、何事も起きないまま目的の場所に辿り着いた。
「ここが日ノ本国のギルド、か」
場所は長屋がある場所とは違い、それなりに大きな敷地を占有している建物だった。桜の言った通り、近くには道具屋や薬屋などが立ち並び、冒険者たちが出入りする様子が見られた。
中に入って見ると、内装は簡素なものだった。魔法石で作られたシャンデリアもなければ、洒落た机や椅子もない。良く時代劇などで見る茶屋の長椅子や、壁際になぜか置かれている大太鼓。張り出された掲示板の隣には、一段床から上がった場所に畳が引かれ、受付嬢たちが依頼書をせっせと処理をしている光景が広がっていた。
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