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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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すれ違った先でⅡ

 脇腹を抑えながら咽る正司だったが、ふと思い出したように顔を上げる。


「そういや、この前倒した魔物の報奨金はどうなるんだ? 封印塚級なら、それなりの額がもらえそうなもんだが」

「そもそも、あれが封印塚から出て来たかどうかを確かめる術がない。そんなものは出ないと思っていた方がいいだろうな」


 隆三はため息をつきながら店の外へと向かう。どれくらいの額になるかはわからないが、宿場町が一つ潰れかけただけでも被害は最小限というくらいだから、それなりの報奨金は本来なら期待してもいいのだろう。

 ファンメル王国で報奨金を貰った時のことを思い出すと、グールは感染性という点において危険視されていたわけで、直接的な戦闘力は強い方ではない。逆に土蜘蛛はその攻撃力と防御力という点においてはかなり強い。もし、もう一度戦えというのならば、勇輝はグールを選ぶだろう。


「封印塚……まさか噂になっている土蜘蛛を退治したって言うのは、本当だったのかい?」

「え、もう噂になってるんですか?」


 驚く房義に勇輝も驚く。

 土蜘蛛を退治してから、まだ三十時間ほどしかたっていない。噂が広まるのは早いというが、まさかそこまで早いとは思っていなかった。


「朝から色々なところで話が飛び交っていてね。何でも北御門の御子息とその一行が打ち破ったなんて話も聞いたくらいだ。今の話を聞くまでは信じられなかったけどね」

「俺は何もしてない。最後にその土蜘蛛――――みたいな奴を倒したのは、こっちの兄ちゃんだ。その時に剣も折れちまったんだよ」


 隆三が勇輝の肩を叩いて笑う。一瞬、躊躇いが見えたのは土蜘蛛を宿した僧侶のことをどう話して良いかわからなかったからだろう。巴の鋭い視線に気付いた隆三は、それとなく濁した言い方で房義に伝える。


 ――――ガタンッ!!  


 その時、店の奥から何かがぶつかる音が聞こえた。

 全員の視線がそちらに向くが、ここからは死角らしく音の正体は判然としない。しかし、房義は何かを察したようで奥に呼びかけた。


「和義。あまり商品は弄らないでくれよ!」

「和義……? 息子さんですか?」

「えぇ、私よりも才能がある自慢の子です。最近は山にある仕事場に潜り込んで、勝手に炉に火を入れて刀作りの練習をしようとしていて手に負えなくて」


 嬉しさと悲しさが入り混じった表情を浮かべる。


「その、それは良いことなんじゃないですか? 練習しなければ何事も上手くはならないですし」


 桜は喜びこそすれ悲しむことではないと呟く。努力を重ねた分だけ上手くなるのはどんなことにも言えるからだ。勇輝もそれには同意できるので、大きく頷いた。


「刀を作るには玉鋼や炉にくべる炭が必要でね。当然、その材料費は高い。鍔や鞘なども他の職人に依頼して作ってもらうことを考えると、作るだけで最低五両はかかる計算だ。いくら血の繋がった息子や孫とはいえ、何の知識もない状態で作刀させるほど甘い世界ではないんだよ」

「そ、そうなんですか。すいません、知らないのに口出しをしてしまって」

「――――と、本来なら言うところなんだけどね。和義は一度見ただけで、作り方を理解してしまうみたいなんだ。一年前くらいに、気付いたら一振り作り終えていて……あの時は、たまげるなんてものじゃなかったよ」


 ――――それは、もはや天才というのでは?


 店にいた誰もがそう考えた。刀を作るというのは誰が考えても高度な技術が要求される。目と耳と手の感触だけで、火の温度、鉄の状態を管理しなければならない。それを一度見ただけで理解し、再現するのは不可能と言っても過言ではない。


「だったら、なおさら作らせてあげるべきでは?」

「和義はまだ刀を作ることの恐ろしさを理解できていない。それがわからない内は、炉の前には座らせられない。それが私と父の結論だ」


 房義は刀を見る時と同じような瞳で虚空を見つめ、拳を握りこんでいた。

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