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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第11巻 墨染の夢を現に返す

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寝ても覚めてもⅦ

 勇輝をじっと見つめていた巴だったが、隆三は苦笑いしながら肩肘をついて、彼女を見上げる。


「そこまでにしておいてやれ。人には知られたくない情報の一つや二つあるんだ。ましてや巫女長の血縁者ともなると、極秘の任務が絡んでいる可能性もある。あまり深入りしない方がいいぞ」

「それにしては、杜撰すぎます。せめて、もう少し偽装をしておいた方が怪しまれないかと」

「それもまた作戦の内かもしれないだろ? さぁさぁ、座った座った」


 目の前の三人には絶対に想像がつかないことであるが故に、詰問されたらどうしようか悩んでいた勇輝にとって、隆三の言葉は正に助け船。ほっと息をつきたくなる気持ちを堪えて、周りを見回す。


「そういえば桜は……まだ寝ているのか。朝は弱いから」

「冬が近付いてくると布団から出るのも億劫になるというものだが、それにしては少し時期が早い。血の気が足らんのでは?」


 呼びに行こうにも場所はわからない。巫女の少女たちに大人しく案内されこそしたが、メイドのようにお願いをするのは気が引ける。どうするべきかと悩んでいると、襖が開いて桜が巫女に手を引かれて現れた。


「さ、足元にお気を付けください」

「……ふぁい」


 寝ぼけ眼で首から上がどちらに傾いてもおかしくない動きをしている。油断するとぱたりと倒れかねない様子に、勇輝は思わず腰を上げた。

 そんな心配をよそに桜は無事に席に着く。肩まで伸びた髪がきれいに整えられているあたり、巫女が梳いてくれたのかもしれない。慌てて飛び起きて来るときは、どこかしら若干の跳ねがあるのだが、見当たらない辺り、かなり時間をかけたようにも見える。

 全員が揃う時間を考慮して、早めに準備を始めたのか。或いは、間に合いそうにないと判断して超特急でここまで整えたのか。どちらであっても、襖の向こうに消えていった巫女の少女の技量に称賛を送るしかない。


「(自分より年下の女の子に起床の世話されるのもどうなんだ……)」


 隣で瞼が閉じたまま舟を漕ぐ桜に思わずツッコミを入れたくなったが、それは人それぞれということで納得する。


「それで、さっきの話の続きなんだが――――」


 まるで妹か娘を見るような視線を桜に向けながら、隆三は勇輝に提案を持ち掛けた。

 護衛を続けるには武器は必須。また、桜に聞いた話によると隆三の向かう先は、桜の故郷の近くを通るという。途中までは一緒に行けば安全だということだ。


「それに、そのお守りを着けたまま旅に出るのは流石に危ないな。本当に襲撃があったのか。それとも幻だったのか判断がつかないままだと無関係な人間まで攻撃しちまうこともあるからな」

「ぎくっ!?」


 隆三の言葉に隣にいた正司の肩が不自然に跳ねた。

 先の戦いに赴くときに正司は、勇輝にお守りを持たせたまま海京のこの城から、土蜘蛛を宿した僧侶が暴れた宿場町に向かった。冷静に考えると急いでいたとはいえ、致命的なミスに繋がった可能性は否定できない。


「正司は正司ですから。うっかり癖はもはや直しようがないかと」


 呆れる巴に正司は言い返すこともできず肩を落とす。ただ勇輝からすれば、そこまで落ち込む理由がわからない。正司はいたたまれなさそうにしながら説明する。


「昔ね。それを持たせたまま魔物の討伐に行った奴が、そのお守りのせいで味方ごと刀で幻覚を斬ってしまったことがあってね。それ以来、戦闘をする可能性がある場所では、そのお守りは外すというのが当たり前なんだ。もっとも、そのお守りを使う人が昨今は激減していて、正しい使い方を知っているのは極一握り。それこそ四方位貴族関係者くらいさ」

「そうですか。じゃあ、街中だともっと危ないんじゃ?」


 勇輝が正司へと視線を向けると、あからさまに目を逸らす。


「……」

「俺を見るな、俺を」


 隆三を目で見た様子からすると、街中でも同じことが起こりかねないということだろう。嫌な予感しかしなくなってきた勇輝は、鍛冶屋に行ってこの物騒な物をさっさと返却するべきだと考えた。


「まぁ、とりあえず、そっちの嬢ちゃんが目を覚ましたら、飯を食って鍛冶屋の爺さんの所に向かうってことでいいな?」


 勇輝はげんなりした顔で頷いた。

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