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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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人を呪わばⅥ

 勇輝には桜の声音から、巫女長と何らかの関りがあるのだろうと察した。彼女の父親は陰陽師で、桜曰く、「没落した家」と言っていた。巫女と言いながらも神道ではない陰陽道の式神を使っている点から何らかの関りがあったとしても不思議ではないだろう。


「勇輝さん。家族が見つかったってことは、記憶は……!?」

「うん、それが……まだなんだ」


 喜ぶ桜の姿に自分が記憶を失っているという話を思い出す。

 いずれは説明をしなければならないのだろうが、この場では耳目が多すぎる。少なくとも、落ち着いた場に移動するまでは、記憶を失ったことにしておくしかない。

 勇輝の反応に桜はしまったという表情を浮かべた。


「ごめんなさい。その……まだ、勇輝さんも混乱してだろうし」

「いや、いいんだ。少なくとも、ひい婆ちゃんのことは思い出せたんだ。この一件が落ち着いたら、詳しく話すよ」


 勇輝が視線を向けた先では、気絶した商人が雁字搦めに縛られて引きずられていた。

 それを背に巴が数人の武者を連れて目の前まで歩いてくる。倒れたまま視線だけを動かす僧侶を見下ろした後、勇輝を上から下まで観察する。

 直後、彼女の拳が正司の脇腹へと突き刺さった。その場に崩れ落ちる正司を見ることなく巴は呆れた声で告げる。


「まったく護衛対象にここまでさせるとは……。一度、屋敷に戻ってお館様に鍛え直してもらったらどうだ?」

「そ、それだけは勘弁を……」

「まぁまぁ、巴。正司も頑張ってるんだし、その辺にしておけ。何もしてないのは事実だけど」

「ぐっ!?」


 隆三のフォローに安心しかけたようだが、痛い所を突かれて、正司は再び崩れ落ちた。四つん這いのまま小刻みに震える姿を、アドルフやアンガスは生暖かい目で見守っていると、ペネロペの声が響いてきた。


「アドルフ! 兄さん! そっちは大丈夫だった!?」

「おぉ! もちろんだ。尤も、活躍したのは俺たちじゃないけどな」


 肩を竦めて微妙な顔をするアドルフに、頷くアンガス。それを見て桜はすぐに否定する。


「な、何を言ってるんですか。お二人のおかげで土蜘蛛にダメージを与えることができたんですよ?」

「まぁ、そう言ってくれるだけでも嬉しいけどな。冒険者としては、あの戦いは負け同然だ。白銀の風だけで戦ってたら確実に全滅。いい勉強になったぜ、ほんと」

「当分、このタイプの手合いとは出会いたくないものだ……」


 もうこりごりだと言わんばかりに二人は顔を見合わせて苦笑いをする。日ノ本国に来て、最初の魔物が封印から解き放たれた土蜘蛛だったのは、彼らにとって強烈な衝撃を与えたことは間違いない。一歩間違えば、トラウマコースで冒険者引退を考えてもおかしくないくらいだ。


「……異国の方々にも迷惑をかけて、もう少し反省しておくといい」


 巴は転がったままの正司を足で小突いて脇に寄せると、僧侶を連れて行くように武者たちに伝えた。僧侶は抵抗する様子を見せることもなく、どこかすっきりしたような面持ちだ。


「感謝する」

「何の話だ。我々は罪を犯した者を捕縛し、必要あらば拷問し、刑に処すだけ。それはお前も例外ではない」

「それでもだ。せめて真実が明らかになり、少しでも、あの娘が報われるのならば……それで構わない」

「……連れて行け」


 それ以上、僧侶は話すことなく、商人同様引き摺られていく。その際、一瞬だけ、眼と目があった。真っ黒な光を放っているようだったが、ほんの僅か、ひとかけらの小さな白い光が灯っていたのを勇輝は見逃さなかった。

 見送った後、唐突に空を見上げる。空には星が瞬き、東の空は瑠璃色から白色に染まり始めていた。


「とりあえず、ゆっくり寝たい、な」

「そうだな。流石にほぼ徹夜だから休みたいところだけど……兄ちゃん。体は大丈夫なのか?」

「そういえば、もうすぐ魔法が切れる時間だっけ」


 式神越しに伝えられた情報だったが、勇輝は特に気怠さと眠気以外、変な感覚はなかった。心配そうに桜も見つめてくるので、安心させようと口を開いた時だった。


「大丈、夫――――?」


 視界が黒く染まった。

 墨汁を浴びたかのような世界の変化について行けず、呆然とする。脳が麻痺し、考えるということができない。ようやく言葉を発しようとした時には、既にその体は桜と隆三に抱きかかえられていた。

 二人が何かを呼び掛けているようだが、耳鳴りがして良く聞こえない。肌がジリジリとして、それ以外の感触を受け付けない。僅かに伸ばした手を誰かが握り返したことだけを理解し、勇輝は意識を手放した。

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