人を呪わばⅣ
四方位貴族における北御門は交易と防衛を司る家系だ。主に外国との関りにおける要職に着くが、その防衛力を培うためには、普段から技を磨きあげなければならない。故に、その家に生まれた者や仕える者はみな等しく鍛えあげられる。
そして、一定以上の力を持つ者は、国内の魔物狩りや国外の武者修行を行いながら、日ノ本国の安寧を守る役目と責を負う。その一人が北御門家の三男である隆三であった。
「ちょっと寄り道する程度だったが、思わぬ収穫だ。叩けば埃がいっぱい出てきそうだし、とりあえず捕えておくか」
「ま、待て! 私はファンメル王国の貴族だぞ!? そんなことをすれば問題に――――」
「うつけが。こちとら交易の諸々を動かしてるから、そういう扱いに慣れてるんだ。グダグダ言っても、何も変わらないし、そちらの国王様は随分と正義感が強いからな。この僧侶が言っていることが真実だった場合、魔物を国内に招き入れた不届き者にどう沙汰を下すのか。それくらい予想できるだろう?」
商人の顔から血の気が引いていく。
既に商人の耳にも自分が密輸入して引き渡した絡新婦が、公爵領の村を一つ潰した挙句、その領主のいる街を襲撃してしまったことは知っていた。
極刑を免れたとしても、もし名前が挙げられれば商人として生きていくのは不可能だし、家からも勘当されて爵位剥奪は免れない。そうなれば、実質の死刑宣告だ。だからこそ、わざわざ日ノ本国に単身で乗り込み、ほとぼりが冷めるまで新しい商品を上手く見繕って過ごそうと考えていた。
それがこの様だ。まさか入国してすぐに前回の取引相手から声がかかり、大捕り物も佳境という段階。天が味方したかと喜び乗り込めば、泥船のように崩れ落ちてしまった。山賊どもは土蜘蛛に殺され、自分も追われる羽目になってしまい今に至る。
何とかこの場を切り抜けて、雲隠れしなければならないことに焦りを感じながら、商人は口を開こうとした。
「隆三様。そこまででよろしいかと」
商人の口から声が漏れるよりも先に、女の声が響いた。
「お前は……巴か?」
「はい。お久しぶりでございます」
商人の後ろから巴が大勢の甲冑を着た武者たちを引き攣れ現れた。その光景に勇輝は眉を顰める。
「(どこから現れた……? 足音はおろか、甲冑が擦れるような音すら聞こえなかったぞ?)」
不可思議な現象に驚きつつも、その後ろにいる武者たちを見ると思わず笑ってしまいたくなった。
武者一人一人が放つ光があまりにも静かすぎたからだ。自分が思いついた言葉が矛盾しているとは理解しながらも、そうとしか表現できなかった。体や防具の上に薄皮一枚ほどの半透明な膜が多い、僅かに光を放っている程度だった。
昔の勇輝なら、それは相手が弱いからだろうと勘違いしてしまっただろうが、それは今はあり得ない。目の前の武者たちは、何らかの方法でその光を発さない方法を使っているのだろう。それも身体強化を極限まで高めている状態で、だ。
己の体から漏れ出る光の無駄加減に勇輝はため息をつきたくなる気持ちを抑えて、成り行きを見守った。
「さて、そちらの商人ですが、西園寺家から連絡が入っております。『その者、国内の人間を唆し、魔物へと変じさせ、国外の組織に売り捌いていた疑いあり。至急、身柄を確保されたし』とのことです。残念ですが、我々からは逃げられると思わない方がよろしいですよ。後ろの武者たちは南条家の方たちからお借りした兵力です。兵器開発と共に、国防の『剣』を担当する家系と言えば、その恐ろしさがわかりますね?」
「ひ、ひいいっ!?」
勇輝はさっぱりだったが、国のことを下調べしている商人からすれば、相当強い存在らしい。少なくとも、様子を見ると逃げるという選択肢は彼の中から消えたようだった。
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