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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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人を呪わばⅢ

 その時、背後からジャリッと地面を踏む音が聞こえた。振り返ると、そこには正に今、話に出てきた商人が恐る恐るといった様子で、崩れた建物の影から出てきたところだった。


「ふ、ふん。先程から俺のことを好き勝手言ってくれているようだが、何かの勘違いだ。さっさとその化け物を殺してしまわないか!」

「……そういうあんたは、今までどこにいたんだ。逃げたんじゃなかったのか?」


 吐き捨てるように言い放った隆三の横で、勇輝や桜も胡散臭いと言わんばかりに目を細めて商人を見る。

 僧侶の話も聞いた後だと、弱った所を口封じに来たようにしか思えない。それは誰もが同じだったらしく、鋭い視線が突き刺さる。


「貴様……よくもそのようにノコノコと、私の前に現れることができたなっ!?」


 僧侶の瞳に再び炎が灯る。

 しかし、いくら意思が強かろうと体が限界だった。半年もの間、土蜘蛛と共に封印され、その体を一時とはいえ乗っ取られていた以上、彼自身が奮うことのできる力は残っていなかった。

 両腕を地面に当てて、起き上がろうとするが、その体が持ち上がることはない。

 その様子に商人は、本当に僧侶が襲う力が残っていないことを確信したようで、引き攣っていた顔に笑みが浮かぶ。


「お前たちは、その化け物を庇うつもりか? さては化け物の仲間だろう。そうに違いない」


 商人が大声で騒ぎ立てると、まだ救助に残っていた冒険者や兵士たちがその言葉に反応して、集まって来た。暴れていた蜘蛛の姿も見えなくなったことで、意外にも大勢の人がまだ残っているようだ。


「おい、何か騒いでるぞ?」

「あの化け物が退治されたみたいだ」

「いや、それが、あそこにいる奴らが倒したと思ってたんだけど、あいつらも化け物の仲間らしいぞ?」

「そういえば、最後の馬車が飛び込んでくる前に来たのもあいつらだったよな。あの弓使い、すごい距離を射ってたから、俺は覚えてるぜ」


 騒がしくなる野次馬に正司が顔を顰める。

 こういう状況の場合、声だけデカい奴が一番面倒なのだ。誰が敵で、誰が仲間だということを証明する方法はない。それ故に、この場において人が集まれば疑われるのは誰か明白だ。


「お前たちが魔物の仲間でないというのならば、さっさとそいつを殺せ!」


 捕縛して王都に連行すると言っても、僧侶を生かして後で逃がそうとしているのだ、と言われてしまえば終わり。反論しようものなら、火に油を注ぐ形になりかねない。つまり、ここで野次馬たちが商人の扇動に乗ってしまえば、事態を収拾する方法として僧侶を殺す以外になくなってしまう。

 既に何人かの冒険者は武器を構え、こちらを警戒し始めていた。後手に回った挙句、立場は劣勢。おまけに時間制限付きとは笑えない状況だ。


「こんな時に巴がいれば、上手く切り抜ける方法が出てきたかもしれないのに……!?」


 正司が悩んでいると、視界の端に隆三の腕が見えた。いや、それだけではない。見慣れない弓を構えている。それがダンジョン産の魔弓と知らない正司は、次の瞬間に放たれた矢が高速で飛んでいくのを見て開いた口が塞がらなかった。

 矢はすぐに商人の真横を通り過ぎ、まだ無事な家の柱へと突き刺さる。


「な、な、ななな……!?」


 腰を抜かした商人に隆三が一歩詰め寄る。


「誰が……魔物の仲間だって?」


 魔力を封じられているはずなのにも拘わらず、隆三の体からは何かが噴き出しているように見えた。人によっては、それが本当に鬼か何かが背後に見えたかもしれない。


「そ、それは、そいつを助けようとしているお前たちが……」

「海の向こうから来た分際で、ここで生まれ育った俺を言うに事欠いて、裏切り者呼ばわりするとはいい度胸だ。ならば、我が名を聞いて平伏(ひれふ)しやがれ!」


 胸元から六角形の板を取り出した隆三は、それを高々と掲げた。


「我が名は、『北御門』隆三。日ノ本国の四方位貴族の一人よ。国を守る一族を魔物の同胞と呼ぶとは無礼千万!」


 響き渡ったその声にどよめきが走った。ある者は顔を輝かせ。また、ある者は隆三の言う通り土下座し、頭を垂れた。

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