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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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魔刃一閃Ⅴ

 鮮やかな青と暗い紺。同じ青系統でもはっきりと対極にいることがわかるほどの違いが、勇輝には見て取れる。その紺色は本来の腕よりも先にふわりと浮き上がり、突き出される光景が見える。遅れて傷の塞がった僧侶の右腕がその光を追いかけ始めた。


「――――っ!!」


 袈裟斬りの軌道を咄嗟に体軸を回転させて、腕を斬り落とす軌道に変更する。僧侶の腕が勇輝の体があった場所へと向かうが、既にそこに勇輝はいない。空を切ったその腕の内肘に剣が叩き込まれ、やっと自分がカウンターを食らったのだと僧侶は気付いたようで、目を見開いていた。

 だが、僧侶の動きは止まらない。先程は肩口にまで食い込んだ剣だったが、腕を払い落としただけに留まり、切断はおろか肌に傷一つ付いていなかった。

 僧侶の左後方から生えていた脚がキチキチと嫌な音を立てた。毛が何百本も生えたような太い脚が視界の端に映る。咄嗟に踏み込んで僧侶に接近すると、そのまま剣の柄頭を振り上げ、僧侶の顎へとぶち当てに行く。

 接近すれば自分自身の体が邪魔で蜘蛛の脚は振るえない。攻撃と回避を同時に行う行動は、しかし、僧侶の左手に受け止められてしまった。

 止まれば次の攻撃が来る。勇輝は止まるわけにはいかなかったが、この接近戦では咄嗟にできることなど少ない。そう考えていたのか、アドルフは援護に向かおうと足を踏み出し、隆三は矢を引き絞った。

 流れるように連続で行動できるのは、普段から鍛錬しているからこそだ。咄嗟に考えて動くというのは二流で、一流は反射の域で動けるからこそ早いのだ。

 故に、即座に体を捩じって勇輝が蹴りを叩き込んだことに、二人は驚愕せざるを得なかった。


「「――――速いっ!?」」


 動きが、ではない。まさに何度も鍛錬をしたかのような。或いは最初から相手の動きが分かっていたような動きに、戦う側から見守る側へと意識が移りそうになっていた。


「――――ひゅっ」


 勇輝の口から息が漏れる。

 一瞬とはいえ、この攻防。予想以上に酸素を消費する。蹴り抜いて開いた距離は、蜘蛛の脚の射程範囲内だが、大きく息を吸うだけの余裕があった。

 対して、僧侶は傷を負っていないのに、余裕がなさそうに見える。


「くっ……魔法や呪術を使ってはいない。純粋な体術と剣術のみで戦っているとでもいうのか?」

「体内に魔力を通してはいるけどな。さっきから数珠で変な魔法をかけようとしているみたいだが、それも魔法を無効化する技か何かか?」


 僧侶の持つ数珠からは何度もソナーのように何かが発せられていたが、勇輝の体には衝撃も何もない。ただ素通りしていくだけの妙な光でしかなかった。


「だったら、これで!」


 右肩を差し出すように半身になると、その背中から生えた脚の三本が勢いよく突き出された。大きな三つの槍――――いや、破城槌が勇輝へと迫る。それを一歩、右へと踏み出して半身になっただけで、勇輝には掠り傷一つ負わずに回避していた。


「やっぱりだめだな。人には人の、妖には妖の、蜘蛛には蜘蛛の最適な体ってやつがある。あんたのそれは、互いのいいところを潰し合ってる。さっきの巨大な姿の方がやりにくそうだ」

「見切ったのか? 今のを……」

「そんなこと、どうでもいい。お前の攻撃が躱された。それだけの話だろう?」


 ゆっくりと剣を構え、勇輝は重心を前に倒す。


「お前のその体も見切った。――――次は、斬る」

「貴様、まさかその眼……天眼(てんげん)に至っているのか!?」


 驚愕に慌てふためく僧侶を無視して、勇輝は一気に距離を詰めた。蹴った地面が爆ぜ、間に存在する空気の壁を突き破り、ただ前へと吶喊する。





 幾本もの不可視の刃が蜘蛛の脚から放たれるが、それが地面に喰い込む頃には、そこに勇輝の姿はない。左右五メートルを大きく超える広い道だが、猪のようにまっすぐに、ただ早く突っ込んでいく。

 もちろん、僧侶もすぐに対応し、蜘蛛の脚を操って勇輝の真正面に刃が行くように調整する。それを勇輝は剣の腹で撫でるように逸らし始めた。

 残る距離は三メートル。僧侶はここで賭けに出た。隙が出ることも気にせず、思いきり蜘蛛の脚本体で勇輝の体へと横薙ぎの一撃を放つ。

 太い足から放たれる一撃は家屋を吹き飛ばすほどの怪力をある。金属の塊と言えども耐えられるものではない。

 僧侶の足が深く沈み込み、胴の内部から悲鳴が上がった。

 しかし、僧侶はそのような音を無視する。目の前の敵以外は脅威に非ず。ここで全力の一撃を放つことに何の戸惑いもない。元より、己の目的が達成されるのならば、他人の命などどうでもいい。

 ほんの少しだけ残っていた僧侶だったという立場の枷が外れた瞬間、蜘蛛の脚が音を置き去りにして勇輝へと襲い掛かった。

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