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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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注文Ⅰ

 ギルドに到着したユーキは、依頼掲示板を眺めながら唸っていた。

 討伐や戦闘に関わる依頼書を探してはいるものの、王都近辺で都合よく狩れるものはそう多くない。ゴブリン程度なら多少はいるので練習相手としては問題ない。

 ただし、そのような相手ばかりでは対人戦という意味では力が付きにくい。かといって歯ごたえがある相手を探そうと思うと、最低でも王都から二、三日かけて辿り着く街や村――――そこからさらに山や森の中に数時間かけていかなければいけない相手がほとんどだ。おまけにパーティーを組んで対処することが必須のものも存在する。

 ギルドの訓練を受けるのも一つの手だが、刀使いが運良く見つかるわけでもなく、逆に素手での戦闘を学んだ方が得策かもしれないと考えてしまう程。そんなことで掲示板とにらめっこしながら、かれこれ十分ほど考え込んでいると後ろから声がかかる。


「ユーキ様ですね。ちょうどよいところに」


 振り返ると受付嬢のコルンが依頼書の束を抱えて立っていた。相変わらず銀髪から動く獣耳を覗かせていて、目で追ってしまう。それに気づいているか定かではないが、コルンは少しばかり目を細めてユーキに一つの依頼書を手渡した。


「これは……」

「指名の依頼書ですね。()()()()()の、といえばお分かりになるのではないでしょうか」


 依頼書の内容をさっと目を通すとユーキもすぐに理解できた。

 ただ同然の値段で購入してそんなに日は経っていないが、来ているコートの使ってみた感想を求められているようだった。依頼人の欄にはロジャーと走り書きがされている。思い返してみるが、ロジャーという名前はあまり聞き覚えがなかった。


「使ってみた感想と追加してほしい機能などを簡単にまとめてほしい、とのことです。そのまま依頼書の裏に書いて持ってきてくださって構いませんので、よろしくお願いします」


 コルンは一礼すると他の依頼を掲示板へと張り付けていく。その中でいくつかの討伐依頼はすぐに屈強な男たちが持って行ってしまうのだった。その波に呑まれぬよう、足をもつらせながらユーキは近くのテーブルまで避難する。

 ほっと息をついて椅子に腰かけると、椅子が鈍い軋んだ音を立てた。額ににじんだ汗に髪が張り付きそうになるのを払いながら、テーブルに備え付けられているペンをとる。


「……俺が書いた文字って読めるのか」


 羽ペンだから書きにくくて字が読めないことと、自分が書いた文字は果たしてこの国の人たちに認識してもらえるのかが非常に不安だった。日本語で書いたらそのままなのか、不思議な力で翻訳された文字になるのか。はっきりとさせておきたいのだが、大勢の人の前では確認したくはない気もする。


「まぁ、やってみるか」


 覚悟を決めて依頼書の裏へ滲んだ字が書かれていく。ところどころインクが水玉模様を作るが苦笑いしながら続けるしかなかった。


「肌触り等良好。近接戦闘時も邪魔ではない。背によっては裾が足に絡むため調節は必須?」


 思いついたことを書いていくと購入時に店員が呟いていたことが気になった。確か「魔法使い」には布の厚さが気に入られなかった、と。ならば――――


「――――魔法、物理攻撃に対する抵抗能力があると戦闘時に安心して戦える」


 敵が魔法使いならば当然魔法を防ぎたいし、前衛を突破してきたのならば剣や槍などの物理攻撃も防いでもらいたいものである。書き加えてみたはいいものの都合の良すぎる内容なので、どうせならばと、途中からどんどん内容を増やしてみた。

 「自動で敵の攻撃を防ぐ」や「オドの貯蔵」、「身体強化の補助」、「隠蔽機能」、「アイテム収納空間」といった、とりあえず便利そうな機能を片っ端から並べていく。途中から明らかに無理だろうと思うものもいくつかあったが、若干テンションがハイになったせいかペンが止まらなかった。

 周りで見ていた冒険者からすれば、にやにやしながらペンを握る男はさぞ気持ち悪かったことだろう。


(こっちは格上と戦わなきゃいけないんだ。その為には、道具に頼ってでも強くなっとかなきゃな)


 一通り書いたものに目を通して、不満そうかつ不安そうな表情で席を立つ。耳をまた細かく動かすコルンに渡すと、いつもと同じ笑顔で受け取ってくれた。自分の書いた文字も見られていたので何か言われるかと身構えていたが、特に何も言われることは無かった。

 拍子抜けした勇輝は、そのままギルドを後にするのだが、そんな背中を見ながらコルンは呟いた。


「この前の事件といい、今回の依頼主といい、本当に運がいいですね。彼は……」


 同僚や冒険者の誰に聞かれることもなく、その言葉は喧噪の中に消えていった。

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