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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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魔刃一閃Ⅰ

 叫び声を上げて落下した後、正司に抱えられて着地した勇輝は、微かな灯りに照らされた道を走って海京の外へと抜けた。

 山道になると、月明かりだけが道を照らす唯一の光源となるが、魔力の使用を解禁した勇輝の前には昼間同然であった。


「慣れた俺でも走るのが大変だって言うのに……よく走るな」


 二人の身体強化は普段よりも更にもう一段階引き上げられていた。何も強化しない全力疾走が、今は何の苦も無くジョギング程度に感じるほどだ。地面の土を軽く蹴り上げて、軽快な足取りで進んで行く。


「それよりも教えて欲しいことが。赤の信号弾が三つ上がるとどんな意味なんです?」

「大抵は良くないことだな。迷宮の氾濫ややばい魔物の出現。特に昔倒し切れなかった化け物が復活したら、確実に上がる」

「今までに復活したことがあるってことですか?」

「あぁ、俺の知り得る限りじゃ十数年前に一体。超が着くほどの大鬼が復活したことがある。宿場町が二つ潰れ、討伐に向かった先遣隊が二つ壊滅。本隊も重傷者が四割を超えたとか。流石に頭をぶち抜かれて、首を斬り落とされちまったから蘇ることはないだろうよ」


 正司の言葉に勇輝は少しだけ考えこんだ。迷宮の氾濫というならば、もう少し魔物の気配がしてもおかしくないはずだ。だが、ほんの少し進むだけで感じられたのは、生き物の気配がしないこと。今の季節ならば秋の虫たち合唱が聞こえていてもおかしくないはずだ。

 それに加えて勇輝の瞳には、空に立ち上る怪しい煙が見えていた。最初は宿場町の方で火事でも起きているのかとも思ったが、どちらかというと一部の魔物が放つ嫌な気配に近い。勇輝は何となく、今回の敵が一体の強大な魔物なのではないかと疑った。


「ここから次の宿場町までの距離は何キロですか?」

「およそ二里強……十キロ程度だ。このままの速度なら十分ちょっとで辿り着ける」

「……もっと速度を上げられますか?」





 勇輝の言葉に正司はぎょっとした。

 北御門で訓練を積んでいる身として、これくらいの距離を走るのは慣れている。おまけに今は、巫女たちによる何らかの補助魔法がかかっていてすこぶる調子がいい。このまま、さらに速度を上げるのは可能だろう。

 しかし、それが勇輝となれば話は別だ。少なくとも、特別な訓練を受けていたようには見えない。木刀の稽古では確かに長時間集中して取り組めていたが、それでも正司からすれば体力は非常に少なかった。

 唯一、目を見張るものがあるとすれば、根性とでも言えばいいのだろうか。最後の最後、体力がなくなるだろうと思ってからの粘りが長い。魔力が多いとかの類ではなく、それが勇輝の体質なのだろう。

 だからこそ、ここで体力を無駄に使わせるのは得策ではない。そのような状態で戦い続けるのは訓練には最適だが、本番は逆だ。何が起きているかわからない以上、勇輝の要望は自殺行為だ。


「……そうか、少しだけ上げるぞ」

「はい」


 だが、その当たり前を無視して、正司は速度を上げる。

 勇輝が素直に聞くかと言われれば微妙だ。このまま、正司を置いて進んでしまうことすらも考えられる。だから、正司はあくまで自分が先頭で勇輝をコントロールできるように、ほんの少しだけ速度を上げるに留めた。


「(もし、こいつ一人で行かせてなんかあったら、後で何言われるかわからないからな……!)」


 何か言われるだけなら、まだましな方だ。最悪、巫女長の怒りを買って、人知れず消えていたなんてことになりかねない。内心、ドキドキしながら勇輝の前を走る。

 お願いだから今は大人しくしていてくれ。そして、どうか何も起きないでくれ。そんな思いを胸に正司は前を見る。次の宿場町は海京から近いこともあり、冒険者や配属されている兵も多い。万が一、何かあってもすぐにどうこうなるようなことはないだろうと、正司はこの時は思っていた。





 数分後、轟音が鳴り響き、朦々と砂埃が舞い上がった瞬間。勇輝がものすごい勢いで正司を追い抜かす。


「すいません。先に行きます!」

「ちょっ!? 待てって!」


 慌てて追う正司だったが、勇輝の姿をあっという間に小さくなっていた。

 勇輝は曲がりくねった道を曲がるどころか、勢いを殺さずに生えている木を足場にして方向転換し、またある時は、そのままジャンプで向こう側へ見える道へとショートカットしていく。

 やがて、宿場町へ近づいてくると、悲鳴と共に馬車や多くの人々が門から逃げ出していることに気付いた。

 このままでは彼らに激突する。そう感じた勇輝は、足へと魔力を纏い、思いきり前へと踏み込んだ。

 空中に舞った体は宿場町の門を大きく越え、長屋のような家の屋根へと着地する。門を越えた瞬間、肌に突き刺すような痛みがあったが、すぐに違和感は消えていた。

 再び加速して、煙の上がっている場所へと近づいていくと、魔法が炸裂する音や家が吹き飛ぶ音が大きくなっていく。そして、何より太く大きな脚が何本もある異様な物体が視界に飛び込んで来た。


「何だ……あれ!?」


 気体・液体というにはあまりに濃く、固体というにはあまりに薄い化け物が魔法を受け、見悶えている。大きく脚が振り上げられると、大きな木の柱が空中へと舞い上がった。その内のいくつかは勇輝の所にも飛んできて、無事だった家に真っ直ぐ突き刺さる。誰もいないことを祈りつつ先を急ぐと、何度かの衝撃音の後、急に巨体が風呂の栓を抜いたお湯のように吸い込まれていく。

 勇輝の脳裏に城で見た夢の光景が駆け抜ける。ガンドのように足へと回す魔力を増大させる。同時に、腰につけていた剣を抜き放った。

 一歩、二歩と足を進めた瞬間。先程の紺の輝きを纏った男と、まるで今にも消え落ちそうな線香花火のようにピンクの火花を散らす少女の姿が目に映った。

 ()()()()()()()()後は十分。迷うことなく、剣を振りかぶり、勇輝はその距離を一歩で詰めた。

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