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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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人魔一体Ⅸ

 僧侶の想定外は、意外にも逃げ出す人が少なかったことであろう。物理も魔法も効かない相手ならば、多くの冒険者は撤退し、相手にするのは一部の武士だけで済んでいたはずだ。

 焼け落ち、吹き飛んでいく蜘蛛の脚を尻目に、僧侶の表情が初めて歪んだ。


「私の邪魔を――――するなっ!」


 突風が吹き荒れたかと思う程の衝撃の後、蜘蛛の脚に吹き飛ばされた瓦礫が魔法使いたちの一団へと襲い掛かった。





 唐突な反撃に慌てる声が響く。何人かが冷静に魔法を放ち、何とか直撃は免れたようだ。

 だが、ここで大きく蜘蛛の体勢が崩れた。それを好機と見たのか。再び、矢の雨が正面から僧侶に向けて放たれる。蜘蛛が弱っているからか、表皮で弾かれていた矢が次第に食い込み始め、なかなか落ちてこない。


「このまま行けば、刀や槍も届くはず……!」


 そう期待するのは無理もない話だ。事実、蜘蛛の脚は八本の内三本が失われ、ご自慢の物理耐性も僅かではあるが破れ始めている。まだ残っていた二十数人の近接武器を持つ猛者たちは、自分たちの出番を今か今かと待ち構えていた。

 そんな彼らの目に映ったのは、血走った僧侶の目だった。


「そこを……どけ……!」

「――――あ」


 僅かに僧侶の姿がぶれたと思ったら、数メートル前まで踏み込まれていた。既に真上には篝火に照らされた黒とも青とも言えない、毛の生えた太い足が迫っている。間抜けな声が漏れると同時に、寺の鐘でも打ったような重い音が耳元で響いた。


「おし、間に合った。この盾じゃなかったら一瞬で踏み潰されてたな」


 目を見開いたまま死を覚悟していた一人は、その声がする方へとゆっくり首を向けた。そこには、足首まで地面にめり込みながらも蜘蛛の腕を弾き飛ばした盾使いの青年がいた。


「さて、連携しようにも上手くいかないだろうし、俺は前に出るとするか」

「お、おい、あんた! そんなに近付いたら!」


 忠告の言葉が届くよりも早く、二撃目がアンガスへと振り下ろされた。

 しかし、今度は先ほどよりも大きな音が響くと、空中に蜘蛛の脚が大きく跳ね上げられる。


「くっ……迷宮産の盾か……厄介な!」

「ビリビリ来るが、耐えられないほどではないな。これなら、ダンジョンの中にいるゴーレムの方が力はありそうだ」

「何をわけのわからぬことを!!」


 跳ね上がった脚をそのまま、もう一度勢いをつけて叩きつける。僧侶としては魔法使いたちが混乱から立て直す前に、少しでも自分に有利な場を作り上げたいのだろう。それならば、力押しの一択は当然の選択だ。

 その考えが致命的な隙を作り出してしまった。

 三撃目を跳ね返すと同時に、魔盾が生み出した衝撃波が砂を巻き上げ、煙幕を作り上げる。視界の悪さに僧侶は目を細めて砂の向こうを見やる。

 僅かに影が揺らめいた瞬間、僧侶は錫杖を思いきり鳴らした。ドンッと目の前で火花が散る。

 蜘蛛の牙の左にはアンガスの盾、右には双剣が食い込まんとばかりに差し込まれていた。


「ぐっ……!?」

「なるほど、やはり魔力で盾の衝撃を増やしていましたか。流石に、そのまま喰らっていたら私にも衝撃が届いたかもしれませんが――――残念でしたね。今、あなたたちの魔力も外に出せないように封じさせてもらいましたよ」

「そうかい。封じるのは()()()()()()でいいんだな?」

「……何?」


 アンガスが不敵な笑みを浮かべる。

 

 ――――確かに魔力は封じたはず。


 そう確信をもったような表情を浮かべる僧侶の目の前で、盾から光が放たれた。


()()()()()()()()()()()()だ。喰らっていきな!」


 空間が歪んでそこから現れたのは、「チビ桜」だった。

 アンガスの盾の能力は衝撃波と()()()()()()。チビ桜程度の大きさなら簡単に収納できる。


「――――式神!?」


 顔を歪めた僧侶。その腹に向かって、チビ桜は両手を翳して一言告げた。


「『――――汝、何者も阻めぬ一条の閃光なり』!」


 土属性の初級汎用呪文。その威力は本来、物理耐性を持つ土蜘蛛の皮膚を貫けるものではない。だが、放たれた石礫は槍の穂先のように鋭く尖り、射出された速度は音速を軽々と超え、僧侶の腹を貫いた。


「がっ!?」


 その声は叫びというよりも、単純に腹を貫通した衝撃で漏れ出た疑問の声だった。

 思わず膝をついた僧侶は錫杖を手放し、血が溢れる己の腹部を抑える。


「どう……やって?」

「さぁな。とりあえず、こっちにいる嬢ちゃんは相当な魔法使いだってことだ」


 桜がやったことは、自分の持つほぼすべての魔力を式神に譲渡。魔盾の中に収納された後は、ひたすら魔法の詠唱と共に石礫魔法に魔力を過剰投入すること。

 かつて魔法学園の金属鎧を壊す試験で桜が編み出した魔力の過剰投入(オーバーロード)による一撃。その一撃はこの数か月の戦いの中で更に威力を上げていた。

 僧侶の目は虚ろで、焦点はアンガスを捉えていない。左右に揺れるその瞳はその背後を見て、何かを探しているようだった。


「このまま、で……終われるかっ!!」

「何っ!?」


 黒い靄が一瞬で僧侶に吸い込まれると、一瞬で傷口を塞ぎ、崩れ落ちた四肢に力を宿す。両手を跳ね上げ、獣のように飛び出した。

 アドルフが慌ててその駆け出した先を見ると、そこには一人で立つのもやっとな状態の桜がいた。いくら式神が桜の思う通りに動くとはいえ、距離が離れたり、魔力のつながりが弱くなったりすれば、反応は鈍くなる。その為、盾から出たほんの一瞬。桜は視覚で認識して、再度接続する必要があった。

 魔力を撃ち消す術に長けた僧侶が、その式神とのつながりのある術者を見分けられないはずがない。土煙の中から現れた僧侶の異常な速さに、周りの冒険者も矢を番えていた隆三も反応できなかった。

 声を挙げることもなく。桜はただ、瞳に暴力的な力を纏った手が迫るのを、漠然と見つめることしかできない。


「(そういえば、前にもこんなことが――――)」


 桜は走馬灯のように魔法学園でのことを思い出す。グールに襲われたとき、青い閃光と共にユーキが放ったガンドが自分を救ってくれた。だが、ここにユーキはいない。故に自分はここでは助からない。

 宿場町の人たちを救いたいと言い出したのは自分自身だ。だから、こうなってしまった責任は自分にある。そう思いながらも、徐々に迫る手を前にどこか桜は穏やかな気持ちでいた。


「(――――きっと、大丈夫)」


 紺碧に染まった僧侶の腕を前に、桜はほんの少しだけ後ろへと背を仰け反らせた。


 ――――ガギィィィンッ!!  


 鈍い金属音が響き、僧侶の腕が弾かれる。桜の瞳には、もう恐怖の色はない。ただ、やはりと言うべきか。見えないはずの青い光が映った気がした。


「悪い、遅くなった!」


 肩に剣を担いだ勇輝が僧侶の前に立ち塞がる。会っていないのはほんの数日なのに、桜にはその背中が一回り大きく見えた。

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