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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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人魔一体Ⅵ

 騒ぎが伝播し、町中から悲鳴が響き渡る中、門の周囲では駐屯していた武士や冒険者たちが各々の武器を構え、僧侶を囲んでいた。

 彼が一歩踏み込むと、囲む輪は一歩下がる。相手が何者か理解できないまま突っ込むのは、危険だと誰もがわかっていた。だからといって、このまま後退し続けても不利になるだけ。そんな集団に僧侶は錫杖に刺さったままの青年を足蹴にして吹き飛ばす。

 二度三度と地面を転がって倒れ伏した青年は、腹から血を流しながら痛みに苦悶の声を漏らす。すぐに何人かが首の後ろを掴んで引き摺って行くが、その無防備な姿を見ても僧侶は追うようなそぶりは見せない。むしろ、それを望んでいるかのように慈愛に満ちた表情を浮かべていた。


「貴様、そのような姿でよくもこんなことを」

「失礼。衆生を教え導き、救うことが私共の定め成れど……私にはそれよりもせねばならぬことがある。申し訳ないが、道を開けていただきたい」

破戒無慚(はかいむざん)の痴れ者が! さっさとくたばって、閻魔様に裁いてもらうと良い!」


 叫んだのは宿場町の住民だろう。怒りで周りが見えておらず、血走った眼で僧侶を睨みつけて大声を張り上げる。もしかすると、家族が先程の攻撃に巻き込まれたのかもしれない。

 だが、その行為に周りの者は殺気立ちながらも、怯えていたに違いない。何か一つでも間違った言動を取れば、先の一撃が再び飛んでくる。


「退いていただけないのならば仕方ありません。押し通るまで」

「ちっ! やれ!!」


 僧侶の纏う雰囲気が変化したのを全員が感じ取った。踏み出した一歩と同時に危機感を感じた誰かが叫び声をあげる。その声をきっかけに矢と魔法が飛んでいくが、その中に何故か隆三の矢は存在しなかった。

 雨あられのように降り注ぐそれに、僧侶は一切の躊躇なく歩いていく。錫杖が地面に着いて、いくつもの輪が高い音を響かせた。


「何!?」


 地面から黒い影が吹き上がった。竜巻のようにも見えたそれは、次第に形を安定させていく。人々はそれが八つの太い足であることを理解した。

 矢が叩き落され、魔法が霧散する。一瞬、それが僧侶のしたことだと気付かず、唖然とした表情で何もなくなった空中を見つめる。そのまま視線を下にずらしていくと、黒い靄がかった蜘蛛のシルエット。その胴体や顔がある部分には僧侶がただ笑みを崩さずに佇んでいた。





 門の近くにある松明の光は透過しないのに、僧侶だけが浮かび上がっている。


「――――残念ながら、あなた方の攻撃は効きません」

「何を馬鹿なことを!」


 敵の言葉など信用できるはずもないと、何人かが矢や魔法を放つ。

 しかし、僧侶が再び錫杖を打ち付ける。蜘蛛が腕を振り回すと同時に攻撃が撃ち落とされ、魔法は僅かな輝きを残して消える。


「わかりましたか? あなた方の攻撃は無駄なのです。早く、そこを退いてください。私、気が短い方なので」

「こいつ、化け物か!?」

「今更ですね。空に赤い信号弾が三つ上がった時点で危険だと判断できていたはずでしょう?」


 蜘蛛の影と共に僧侶は一歩ずつ歩を進める。そんな彼の視界の端に妙なものが写った。夜空に一人、逆さまに落ちていく人影。そんな景色に気が逸れないはずがなく、そちらへと顔を向け――――


 ――――ズドッ!!  


 ――――ようと思った時には、既に顔のすぐ近くをものすごい勢いで矢が通り過ぎて行った。音速に近いそれは背後の地面へと突き刺さり、籠った魔力を爆発させる。


「ほう……」

「ちっ、流石に空中で逆さになって撃つのは限界があるか。次はもっと強いので行ってやる!」


 今の櫓からでは大勢を巻き込んでしまう。かといって下に降りてから射撃できる場所を探すには狭すぎる。それ故に取った手段が誰もいない空中からの奇襲。それが功を奏したのか、僧侶の頬からは真っ赤な血が流れ落ちていた。

 意外そうな――――或いは興味深げに見つめてくる僧侶を見て、隆三は弓引く腕に力を籠める。今度は屋根の上、彼我の距離は二十メートル。全力で放てば、その四肢を粉々にするであろうという自信をもって解き放つ。

 瞬間、轟音を伴って音速を越えた矢が僧侶へと襲い掛かった。

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