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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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人魔一体Ⅰ

 海京まで後数キロという所にある最後の宿場町に桜たちは辿り着いた。

 既に打ち上げた三つの赤い照明弾と煙は、当然宿場町にも伝わっており、既に入口は武器を持った者で固められていた。

 赤い照明弾が三つ上がるというのは稀だ。どんなことがあっても基本は二つの組み合わせまでで連絡することになる。つまり、この信号が意味することは「緊急事態発生。信号が見える者は各自避難、または武装し是に対応せよ」である。

 この信号が上がる場合は限られており、ダンジョンの氾濫などが主な原因であるが、時に封印した魔物が復活するという場合がある。その姿は御伽噺や伝承として言い伝えられている為、見かけた者は決死の覚悟でそれを後の者に託して信号弾を上げるのだ。


「信号弾を上げたのはあんたらか。良く生きて辿り着いたな」

「話は後だ。門を閉じて防備を固めろ。矢でも何でもいい。できるだけ攻撃する手段を確保しておけ」

「任せときな。相手は何だ?」

「土蜘蛛だ。糸に絡めとられて引っ張られたら、その部位が千切れ飛ぶし、足を振るえば、大木がなぎ倒されるぞ」


 矢継ぎ早に隆三が捲し立てると、周りにいた冒険者や侍たちの顔が険しくなる。


「土蜘蛛の塚はもう少し先の所だったはず。こっちを目指しているとなると、何かを追っているのか?」

「そんなことより攻撃手段だ。ありったけの金物を用意しろ。あいつを屠ったのはお偉い武士さんだったはずだ。流石に名刀や達人がごろごろと存在しているはずはないが、それは数で補おう」


 戦えずとも音だけで気を散らすことはいくらでもできる。自分の苦手とする攻撃の音が四方八方から聞こえれば、そう簡単に戦うことはできないだろうし、攻め込んでくることも嫌がるだろう。

 何代も前から伝わる言葉を引き継いできた者たちは、武装こそしていないが、鍋や包丁などできる限り金属の物を持ってこようと各々の家に走る。


「何とか……逃げ込めましたが、このままだとここで戦うことになりそうですね」

「最悪の事態は回避できたって、隆三も言ってただろ。もし、道中で追いつかれていたら、こっちは全員死んでたかもしれないんだ。もちろん、その後はここだ。ここの奴を巻き込んだと思うなら間違いだぜ」


 浮かない顔をしながらも桜はアドルフの励ましの言葉に意を決する。未だに送り出した式神は、この街に迫っている馬車とその後を追う影を捕捉していた。このままの速度ならば五分と掛からず到着するだろう。それまでに商人の馬がもつかどうかだ。


「嬢ちゃん。奴はまだ大丈夫そうか?」

「わかりません。土蜘蛛らしき存在に気付かれないように一定の距離を保っているせいで、大体の位置は掴めても詳細までは……」

「そうか。じゃあ俺は、とりあえず櫓に登って先制攻撃を仕掛けようと思う」


 隆三が顎でしゃくって見せた先には、門の近くにあるものとは別の高い櫓だ。そこからならば、普通の弓でも攻撃範囲がかなり広がる。隆三の魔弓ともなれば、かなりの射程になるだろう。


「どうせなら仕留めてしまいたいところだが、先人たちが仕留められなかったってことはそれなりの理由があるんだろう。倒すにしろ封印するにしろ、できるだけ手傷は負わせておきたいところだな」


 封印された事実と伝承だけが残り、その詳細を知る者はこの世にいない。

 海京にいる兵たちも信号弾を見て動き出しているはず。ただの援軍ならば一時間で来れるだろうが、封印塚の魔物に対抗するための援軍が辿り着くには、最低でも四時間ほど必要だ。夜明けまでを耐えるには厳しいものがある。だが、逆に言えば、「耐えてしまえば機はこちらにある」とも言える。

 こういった手合いの魔物は夜には力が増すが、日中は逆に力を失いがちなためだ。これを聞いた白銀の風一行は、どこの吸血鬼だと肩を竦めた。

 加えて、運よくここにはダンジョン産の魔弓が存在している。一本でも多くの矢を撃ちこみ、できるだけ動きを鈍らせることができれば、希望が見えてくる。


「嬢ちゃんとそっちの三人は、できるだけ後方に下がっていてくれ」


 それ故に隆三は攻撃に専念するため、桜の護衛を三人に託すことにした。

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