夜空の赤星Ⅵ
光の檻は閉じ込めた者を傷つけることはない。
正確に言うならば、その光へと中の者が触れることはできない。物理的にではなく、精神的に触れてはならないと思ってしまう。
「こ、こんなことをして、許されるとでも!? わ、私を誰だと思って――――」
「許される許されないの話じゃないの。悪いけど、あなたたちはそこで事が終わるまで待っていてちょうだい」
光子は残った巫女見習いたちへと視線を向ける。その表情は若干の恐怖の色に染まっているものがほとんどだった。
――――またか。
その言葉を呟くことなく、光子は菊へと近づいた。彼女が優れていると発言したのは紛れもない事実だ。実際に多くのことを学び取り、自分たちの補佐も難なく行うことができている点では将来有望だ。このまま行けば、巫女長の補佐も可能だろうと率直に思うくらいには、だ。
「他の子を連れて、巫女長の所へ行きなさい。場所は一つ下の救護用の大部屋よ」
「わ、わかりました。それじゃあ、みんな着いて来て!」
一刻も早くこのひりついた空気のいる場所から逃れようと、一言も話さずに巫女見習いたちは菊の先導に従い移動していく。その際に、彼女たちは光子と目を合わせようともしないものが大半だった。
――――鬼巫女。
光子に付けられたあだ名は、冠に立ち向かうべき魔の名が置かれていた。
理由は単純明快。齢十五にして並み居る正式な巫女たちよりも多く、世に蔓延る魔を調伏し、圧倒的な力を誇っていること。そして、どのようなことがあろうとも規律を乱す者を許さない姿勢。
そのような者が現れようものなら、即座に拘束して説教・罰則なんのその。多くの巫女見習いたちに地獄を見せて来た存在だ。
「さて、いつもならあなたたちの言い訳を聞いて、一つずつ叩き潰してあげるところです。ですが、今日はそのような暇はないの。悪いけど、そのまま朝まで待っててくれる?」
「な、何故、そんなことを!?」
「あら、わからないの? 巫女長からの命をあなたたちが拒否したからでしょう。私経由とはいえ、ここで巫女として修業する者にとって、巫女長の言葉は絶対。それができないのなら邪魔なだけ。雑音を巻き散らさない分、置物の方がまだましだわ」
そう言うと光子は廊下へと歩いていく。
襖を開けて出て行く際に肩越しに振り返ると、冷めた瞳で言い放つ。
「ここでは元いた家の身分のことは忘れることね。ここでは実力が全て。家柄は何の役にも立たないの。それでも、それに縋るというのなら――――」
怯えた瞳に呆れながら、光子は正面を向いて吐き捨てる。
「私の家柄を越えてから偉そうにしてくれる?」
空間を引き裂いたかのような乾いた音が響く。襖が閉じた後、拘束されていた五人はそれが、部屋の四隅に置かれた明かり用の魔石に罅が入った音だと気付いたようだ。数秒後、亀裂から魔力を噴出した魔石は光を失った。
突如として灯りが失われて、半泣きの叫び声が部屋の外へと漏れる。それを背に光子は菊が向かった先とは逆に、階段を上がっていく。彼女の役目はここからが本番。行われている祓詞を続ける巫女たちに異変が生じた際の繋ぎ役だ。
昼の城では多くの巫女たちがいた為、一人にかかる負担はそこまででもなかったが、今いる人数は遥かに少ない。巫女長がそれに気付いて、代わりを送るまでの代役を務めなければならないだろう。
「内守勇輝、か」
彼女も詳しくは聞かされていない。知っているのは巫女長の曾孫であり、何らかの特殊な体質をもっているということだけ。城に招かれた正式な巫女たちが、その男の邪気か何かを払った影響で倒れ伏していることには、特段驚くことはなかった。
むしろ、それくらいあってもおかしくないとさえ思っていた。なぜなら、自らが尊敬する巫女長の血筋だ。相当な力を持っているのは予想されうることで、その相手に向かって相対的に弱い者が力を送れば反動が強く返ってくるのは当たり前だからだ。
事実、実力が高い巫女たちは反動をものともせず、今も祓詞の奏上に参加しているはずだ。ただ一つ、誤算があるとすれば、それは人数が減ったことによる負担が光子の考える以上に重かったということだ。
「そんなっ!?」
勇輝たちの部屋に続く廊下に出ると、そこには奏上し始めてまだ間もないはずなのに、既に横へと倒れている巫女が出始めていたからだ。
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