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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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夜空の赤星Ⅱ

 その横で正司は難しそうな顔をしたまま顔を顰めていた。巫女長と同席しているというのもあるが、勇輝と交わされる内輪の話に口を挟むわけにはいかず、かといって目の前の料理に手を付けるわけにもいかない。

 北御門の兵である彼自身、何度か城に来ることはあったが、この三の丸にだけは近付くことがほとんどなかった。知識として知ってはいたものの、勇輝同様全てが初体験だ。

 内装はところどころに神道を思わせるような神棚や入口以外にも存在する鳥居などに口が開きっぱなしになるのを抑えるので精一杯といったところだろう。もし、巴が近くにいたら確実に脇腹を小突かれていたはずだ。


「さて、料理も出て来たし、あまり長話していると護衛の人も困ってしまうでしょうね。そろそろいただきましょうか」


 正司の心も読んだのか、巫女長は両手を合わせる。食事前のいただきますにしては長く、祈りというには短い絶妙な間を空けてから箸を手に取った。

 目の前に用意されているのは玄米、味噌汁、魚、お浸しに漬物と現代の人間が考える古き良き日本の食事、とでも表現すべきものだった。最初は精進料理でも出てくるのかと、身構えていた勇輝と正司は拍子抜けといった感じだ。


「じゃ、じゃあ……いただきます」


 とりあえず、勇輝は普段通りに挨拶をすると、真っ先に味噌汁へと手を付けた。赤味噌の中に豆腐と玉葱だけが入っているものだが、その味を感じた瞬間、思わず巫女長へと視線を向ける。


「これ、作った?」

「やっぱり、わかるんだね。もう長いこと食べてないだろうから、わからないと思ってたんだけど」

「婆ちゃんも同じ赤味噌で同じように作るからね。母さんは白味噌派だったけど、俺はこっちの味の方が好みかな」


 その会話を聞いた正司が思い切り咽て、胸を大きく叩く。どうやら、変なところに味噌汁が流れ込んでしまったようだ。


「こ、これを、巫女長が自ら!? お、恐れ多すぎて、息道に入っちまった」

「え? 別におかしなこと言った?」


 きょとんとする勇輝に正司は息を整えながら説明する。


「いいか。高貴な方々って言うのは、そういう雑事に自らの手は使わないのが当たり前なんだ。食事を作るのだって、運ぶのだって、米をお櫃から盛り付けるのだって、召使の者にやらせるのが普通なんだよ」

「あぁ、そういう考えかぁ」


 国語の授業で、平安時代に貴族の娘がご飯を自分の手でよそう姿を見て、恋仲の男が途端に冷めてしまった、というような話をやった覚えがあった。確か伊勢物語か何かに出てきた話だっただろう。

 当時は風流だとかそういった形が重視されていたようだが、今でも一部特権階級の間では、そういう色が残っているところはあるのかもしれない。どちらかというと正司の反応を見る限りは、単純に巫女長の飯が食べられたことへの希少さから出た驚きなのだろうが。


「逆に考えると、それだけ気持ちが籠ってるって見ればいいのに、どうしてそんなに難しく考えるかなぁ?」

「いいんだよ。やりたくてやってることだからね。それより早くお食べ。魚も煮付けで大分味は濃くなっているよ」


 そこまで聞いて勇輝は気付く。

 恐らく巫女長は勇輝が道場で長い時間鍛錬してくることを見抜いていたのだろう。今日は長い時間素振りを続けてへとへとだ。汗も大分かいて、全身びしょ濡れになりかけた所だ。ここに来る前に一度、湯屋に寄ってくる必要があるくらいには。

 つまり、動いた分だけ体から抜けた塩分などを補給してやらなければならないし、たんぱく質も必要だ。そういう意味では、今日の献立は今の勇輝の体が欲している物をしっかり入れてくれている。


「よく噛んで、落ち着いて食べなさい。昔みたいに赤飯のお櫃に手を突っ込んで食べたら、お腹を壊してしまうからね」

「そ、それは俺がまだ歩き出した頃の話だろう!?」


 周りの巫女たちがクスクス笑うので、顔を真っ赤にして反論すると、巫女長もそうだったと笑い返す。


「これを食べたらゆっくりと寝ると良い。多分、明日の起床は思ったより早くなりそうだからね」

「え? 俺どこで寝ればいいの?」

「もちろん、ここさ。護衛の兄さんも一緒に泊っていくと良い」

「「……えっ!?」」


 女の園に男二人。二人の脳内に全く同じ光景が思い浮かぶ。どうやら、二人とも寝付くまでには時間がかかりそうだ。

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