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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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土の下に眠るものⅦ

 馬が歩き出してから一分もすると、馬もペネロペも状況に慣れたのか、馬車の進みが次第に早くなり始める。人間で言う駆け足程度の速さでの移動だ。風の魔法による障壁も短く見積もって数分と考えると、できるだけ速さを上げたいところだ。


「ペネロペ。スピードを上げるぞ!」

「任せて、何とか合わせるから」


 魔力切れ対策にポーションを飲んで、ペネロペは御者台の向こうを注視する。まっすぐ進むだけならまだしも、山道ということもあって蛇行している。風で巻き上がった砂と吹き飛んでいく虫の先を見て、魔法を操らなければならない。

 文字通り、一歩の間合いを間違えば、馬車が吹き飛ばされかねない集中力のいる作業だ。並大抵の魔法使いなら、発動まではできても移動速度を上げるなどということはできはしまい。


「失敗するもんですか。失敗して虫に近づかれるくらいなら、馬車ごと吹き飛んだ方がマシよ!」


 本来なら、パニックを起こして魔法が暴発したり、制御ができなくなったりするところだが、彼女の虫嫌いが運よく極度の集中状態を作り上げていた。操作する風は馬車の速度にぴったり一致し、馬車の後方四メートル、前方八メートルを誤差一メートルで展開し続けている。


「ほんと、ペネロペがいて助かったぜ。もしいなかったら、この先も、こういった小さな虫を俺たちが退治しなきゃいけないからな。アンガスの盾ならまだしも、俺の剣には何の特殊能力もないから、一匹斬るのも一苦労だ」

「アドルフ。私ばかりにやらせるようだったら、パーティから抜けさせてもらいますからね」

「お、おいおい。冗談だよ。煙玉とかで援護はするぜ? 今回は視界を塞いじまうから使わないだけだって」


 慌ててアドルフが釈明していると、桜の頭がピクリと持ち上がる。


「……何か見つけたか?」

「どうやら私たちと同じように馬車で移動している人がいるみたいです。まだかなり離れているようですね。位置で言うと――――一つ前の宿場町を出て十分くらいといった所でしょうか」

「……俺たちが言えたことじゃないが、十分怪しいな。同じ考えを持った奴か、それとも何かをやらかして逃げている奴か。いずれにせよ、情報が欲しい。できるか?」

「やってみます。少し、私の反応が鈍くなりますが、気にしないでください」


 そう言うと桜は自身が飛ばした式神へと意識を割く。夢の中の景色を見るように、少しずつ頭の中に映像が入り込んできた。

 漠然としていた映像がはっきりしていくにつれて、桜は眉を顰める。山道の脇にある木々の合間を縫って、馬車の御者台近くの魔法石が放つ光が漏れる。どうやら、そちらは虫などの大行進がないようで桜は思わず羨ましくなった。

 さらに意識を集中すると共に、魔力を込めるとより景色が鮮明になっていく。そこで、桜は視界に映っている馬車の速度がかなり早いことに驚かされる。少なくとも、夜道の山道で出すような速さではない。ほぼ全速力と言っていいほどで、まるで何かから逃げているようにも見える。

 その時、一瞬だけ馬車が開けたところを通った。その馬車の姿を見たと同時に、桜は口を開く。


「山賊に襲われた時に通りかかった商人らしき人の馬車です。かなりの速度で、何かから逃げているようにも見えます」

「やっぱり、あの野郎……山賊と手を組んでやがったか?」


 確たる証拠はないが、消息不明だった馬車が堂々と存在しているあたり、山賊と何かしらの関係を結んでいたことが想像できる。中には金を払うことで見逃される商人もいないわけではないが、金で解決できていたのならば、桜たちが駆け付けた時には、どこかですれ違っているはずだ。

 式神越しに疑惑の眼差しで観察を続けていると、突如、その馬車の後方で木が数本倒れた。まさか、あの商人が山賊に追われているのだろうか。そんなことを考えていると、倒れた木を避けて、馬車と同じくらいの大きさの物体が移動しているのが視界に飛び込んでくる。


「……隆三さん。やっぱり駄目だったみたいです」

「そうか。どこの塚の奴かわかるか?」


 信じたくはなかったが、あまりにも特徴的な姿に、その正体を見間違うことはない。桜はゆっくりとその名を口にした。


「……恐らく、土蜘蛛かと」

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