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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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土の下に眠るものⅤ

 緊張した面持ちで武器を握る手に力を入れる三人だったが、それを桜は少しだけ強張った笑顔で見返した。


「安心してください。特性が似ているだけで、日ノ本国の戦力だけで封じることができていますから、魔王ほどの恐ろしさはないと思います。百年に一度の大地震や津波といった災害と同じだと思ってくださればいいかと」

「いや、災害並みにヤバい相手ってことじゃん」


 何のフォローにもなっていないと苦笑いしながらも、彼は真っ先に思考を切り替えたようで意見を出し始める。

 ここで悩んでいても仕方ない。逃げるなら逃げる、戦うなら戦う。はっきりと結論を出して即行動に移すべきだ、と。


「それで、どうするんだ?」

「とりあえず、次の宿場町まで逃げた方が賢明だと思います。少なくとも、町には防御陣地が敷かれていますから、ここで私たちが戦うメリットはないです」

「何もなければそれはそれでよし。ヤバい奴に追われているなら、味方は多い方がよしってことだな。アンガス! いつ出せる?」


 アドルフの指示でアンガスはすぐに御者台の先にいる馬を見る。幸いにも隆三が弾き飛ばす魔弓の範囲に入っているのか、馬たちに虫や獣が殺到している様子は見られない。


「馬は大丈夫だが、このままでは出られない。せめて、この大行進が終わらないと!」

「そう……じゃあ、私の出番ね」


 ペネロペはそう言うとゆっくりと立ち上がった。


「風の魔法を馬車の周りに展開するわ。そうすれば魔弓でいちいち弾き飛ばさなくても何とかなるもの」

「それなら最初からやってくれればよかったのに、な!」


 隆三が弦を弾きながら抗議するが、ペネロペは顔を真っ赤にして反論する。


「こんな気持ち悪い虫がうようよ湧いてきて冷静に対処できるかっていうのよ! 今は逆に腹が立ってしかたないから、魔法で吹き飛ばす気満々だけどね!!」

「その……悪いな。こいつ、足が四本より多い奴とか蝶以外の飛んでる虫は苦手なんだ。百足なんて持って来た日には持っている手ごと無くなってもおかしくないぞ」

「そ、そうか。そりゃ、悪いことを言った。すまん」


 怒りに震えるペネロペに謝りながら、隆三は再び虫を弾き飛ばす。魔力に余裕があっても、ハッキリ言ってキリがない。次から次へと通過する虫たちに会話する余裕もない。

 隆三が冷や汗が浮かび始めていた矢先、ペネロペの詠唱が静かに響き渡る。


「『天に昇る息吹を以て、その意を示せ。すべてを遮る、烈風の咆哮よ!』」


 一瞬、周りを過ぎ去っていく虫や獣の足音や羽ばたき、葉が擦れる音が消失した。世界から音という概念が消えた後、思い出したかのように風が木々を軋ませる音が耳に届く。


「隆三! 風の魔法の範囲内にいる奴だけ叩き出しといて!」

「任せておけ。この魔法、どれくらい持たせられる?」

「虫から逃げられるなら、いくらでも! って言いたいところだけど、十分が限界かも」


 杖を通して魔力の展開を調節する。大きすぎれば魔力消費が大きくなり、小さすぎれば馬や荷台に被害を及ばしてしまう。それに加えて、今から馬車を走らせようというのだ。常に魔法を変化し続ける進行方向に対して先回りする様に動かすのは至難の業だろう。


「出発するぞ! ペネロペ、いいな!」

「あんまり早くしないで! 馬が怪我しちゃうから!」


 その言葉を受けてアンガスは任せろとばかりに御者台へ乗り込むと手綱を握った。馬は水から上がった後かのように全身を細かく振るわせると、耳を左右に素早く動かしながら前足で地面をカッカッと掘り返す。


「嬢ちゃん。もし塚が壊されたとすると、どいつだと思う?」

「鬼や鵺だったとすると、これだけで収まるとは思えません。そうなると、国が常時見張るほどではないけれど、並みの冒険者数十名程度では危険と判断されるくらい……でしょうか」

「そうなると厄介だな。せめて、北御門の爺みたく遠くが見えればいいんだが……」


 そう呟いた隆三に桜は人の形をした紙を見せる。その物体を見て、隆三は目を大きく見開いた。

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