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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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土の下に眠るものⅢ

 宿場町で仮眠を取った後、桜たちは次の町へと道を急いでいた。幸いにも、魔物が近付いてくる様子はないようで、時折、獣がガサガサと草を揺らすのが遠くで聞こえる程度だ。


「獣の直感と魔力。この二つを扱える魔物の夜襲に遭うこと程、恐ろしい物はない。しかし、こうやってやれば相手も下手には襲って来れない」


 そう言いながら隆三は定期的に魔弓の弦を弾く。それほど力を込めたように感じない動作だったが、一度放たれれば、心臓に響いてくるような衝撃が届く。まるで大太鼓を間近で叩かれている気分だ。

 うつらうつらと船を漕ぎそうになっている桜とペネロペも、始めはびくりと飛び上がっていたが、今では誰一人として意識が朦朧としているものはいない。


「それ、一言言ってもらわないと本当にびっくりするからな。下手すると魔物も獣も関係なく叩き起こしてるんじゃないか?」

「可能性はなくもない。しかし、安全を確保するためだから、今晩だけは許してもらおう。今頃は驚いて、ここから逃げ出しているだろうからな」


 アドルフが苦笑いして心配している横で、アンガスは別の不安を抱いていたようで、苦言を呈する。


「逆に言えば、それを耐えられる奴には居場所を知らせているようなものだが……大丈夫か?」

「そんな化け物がうろついてるなら、今頃この辺りの宿場町は滅びてるだろうし、北御門か水皇の軍が動いているだろうな」


 数年間、日ノ本国から離れていたとはいえ、長く過ごした故郷だ。勝手知ったる何とやら。この地域にはそれほど危ない魔物はいないのは知っている。

 出てくるとするならば、よほどの山奥。北御門も東雲も近寄ることを避ける北東の山。或いは、祖父よりも前の世代から伝えられる封印された怪異たちだ。それ以外はダンジョンに潜らない限りは出会うことはない。

 だから隆三がほんの少しの危険性があるとしても、伝えなかったのは不思議ではなかった。それは桜も同様で、奇襲を受けること以外はそこまで危険性はないと感じていた。


「へぇ、その怪異っていうのはどんなのがいるの?」

「そうですね……。例えば、前に話題に出た鬼ですね。なんでも首を刎ねられても生きているほどの生命力で、腕を振るうだけで木々がなぎ倒されるとか。人によっては山が吹き飛んだとも言いますね」


 目が覚めてしまったペネロペがやることもないので聞いてみると、桜が待ってましたとばかりに話し出す。


「後は有名どころで言うと、鵺がいますね。頭は猿、胴は狸、尻尾は蛇、手足は虎という何とも不思議ないでたちをしていたとか」

「……それただのキマイラじゃない?」


 キマイラは獅子の頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ魔物だ。口から火を吐くこともあり、ダンジョンで遭遇した時には、多くの冒険者が死を覚悟するレベルだ。


「キマイラはどちらかというと物理攻撃と炎、毒攻撃が主体ですね。鵺の場合は呪いが主体になります」

「……呪いっていうとゴーストとかが使うアレ?」


 ペネロペの言葉に桜が頷く。

 呪いというのは毒や麻痺といった具体的な効果で判別することは難しい。頭痛や吐き気、倦怠感などの症状もあれば、四肢や内臓機能の低下、不随などの重篤な症状までさまざまである。一説によると、魂や肉体を相手の魔力で汚染されているとも言われている。


「なるほどね。どちらかというとガンドのようなものか」


 アドルフの言葉に桜は思わず振り返る。

 確かに言われてみれば、ガンドもまた魔力の塊を相手の体に叩きつけて体調を崩す魔法とされている。しかし、勇輝の放つ一撃を何度も見ているせいで、常識の範囲におけるガンドの知識がすっかり欠落していた。


「それで、他にはどんな魔物がいるのかな? 一応、俺たちも冒険者だから、自分が敵うかどうかの基準は知っておきたいからね」

「そ、そうですか。じゃあ、後は――――」


 桜が応えようとしたとき、馬車が上下に激しく揺れ始めた。すぐに全員が武器を手に警戒をするが、帆を張っている為、すぐには確認できない。こっそりと顔を覗かせて、外を見てみると魔物はおろか虫の一匹すら見ることが敵わなかった。

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