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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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土の下に眠るものⅡ

 月がゆっくりと昇るにつれて、木々の間に仄かな月光が差し込んでいく。そんな中で風もないのに草が動き、触れ合う音が響く。草木も眠る丑三つ時に動く動物も存在はするが、それらは皆黒い装束に身を包んだ山賊であった。

 その中の何人かは桜たちを襲った際に捕まった姿のままであり、非常に窮屈そうにしていた。


「おい、いい加減に縄を外してくれよ。俺たちが歩いた方が早いだろ」

「悪いがそれはできない。(かしら)の指示は絶対だからな。俺の首が飛んじまう。解放されたいんだったら、さっさと進むんだ」


 自分を担いで歩く仲間に抗議するが、それを仲間は悪びれた様子もなく、淡々とした口調で前に進むことを促す。


「大体だな。この捕縛用の縄が欲しいなら、外して持って行けばよかっただろ」

「何度も言わせるな。縄を外せば、離れていても術者に伝わる。そうすれば、作戦に移す前に面倒な相手と鬼事をする羽目になるぞ。それとも、()()()()()()()()()()のか?」


 そう言われて、捕縛された男は押し黙ってしまう。飲食も問題なく与えられているし、暴力を受けているわけでもない。ただ、自分で普段やっていることを他人にされると、酷く面倒であることが自分をイラつかせる。特に用を足す時などは羞恥と不快の極みだ。

 そんな考えを巡らせつつ、道と呼ぶには不釣り合いな獣道を進んで行く。やがて、杉の木が見え始めると騒がしかった虫たちの声が次第に遠退いていく。目の前を飛んでいた羽虫や蚊がいなくなって大分歩きやすくなった。

 草も背丈が低くなり、通りやすくなった分、本来ならば身を隠すなどの工夫が必要になるが、彼らは堂々と立ったまま進んで行く。何故ならば、ここにそのような山賊を見咎める人間がいないからだ。


「……着いたか」


 大きな岩の裏から何人かの人影が姿を現す。それは彼の仲間たちであり、宿場町でも噂になっている大規模な山賊であった。

 その中から最も体格がいい男が進み出ると短く問う。


「数は?」

「使用済みが十二、未使用が四です」

「未使用が四本は心許ない。せめて倍の八は欲しかったが仕方ないか。物を用意できただけでも良しとしよう」


 ため息交じりに首を振る男へ、先程文句を垂れていた男が話し掛ける。


「お頭。例の捕獲作戦をするんでしょう? だったら早く縄を解いてくれませんか。さっきから蚊に刺されたりなんだりで、皆堪らないんですわ」

「そうか。気が利かずに済まなかったな。お前の息子も同じ役目を果たした時に、同じことを言っていた。やはり親子だな」

「そ、そうです。それに俺の倅は前の任務以来、別の任務に着いて会えていない。これが終わったら会わせてくれる約束もあった。覚えてらっしゃいますよね?」


 不安そうにする男に頭は大きく縦に顔を頷かせる。暗闇でほとんど見えないが、その顔は笑顔であることは朧気に見ることができた。


「もちろんだ。お前も、お前の息子も大いに役立ってくれた。お前だけじゃない、そこの後ろについて来ている奴らもみんなだ。これでまた、大金が手に入る。そしたら、服を着替えて酒を浴びるほど飲もう。女を朝まで抱こうじゃないか」


 頭につられて、山賊たちの笑い声が辺りに木霊する。


「……お頭。準備が整ったようです」


 背後から近づいてきた男が頭に耳打ちする。それを聞くと目を細めて、小さく呟いた。


「そうか。できるだけ素早く始末しろ。下らん茶番はここまでだ」

「わかりました」


 男が去っていったのを見て、頭は後ろにいる部下に指示を出す。


「お前ら。今から大捕り物だ。油断すんじゃねえぞ。さっさと配置につきやがれ!」


 鶴の一声とはまさにこのこと。軍には及ばない無秩序な統制だが、その気迫は劣っていないだろう。その鬼気迫る表情と雰囲気に、慌てふためきながら捕まったままの男たちは、顔を左右に巡らせて様子を窺う。


「一体、何を……。作戦を始めるなら我々も早く――――」

「言っただろう? 息子と会わせてやるって。早く会いたいんだろう? ならさっさと()()()()()()()とな」


 縄で拘束された男たちを連れて来た仲間は一斉に山刀を振り上げる。


「てめぇら!? まさか――――!?」


 それより先の言葉が発せられる前に、男たちの首に山刀が食い込んだ。音にならない悲鳴と叫びが響き、地面へと倒れ伏す音が折り重なっていく。

 死体となって痙攣する仲間の腕から縄が解ける。それらを山賊が拾い上げると、大きな岩の周りを取り囲んだ。地上だけではなく近くの木の上に登って待機する者もいる。

 縄で大きな輪を作り、簡易的な投げ縄へと変貌させる。更にそこへ持参した縄を結び付けて射程を伸ばす工夫を拵えていった。また、その他の者は矢を構え、いつでも攻撃に移れる姿勢だ。


「さて、今度は一体何が出るか。前回の蜘蛛女より高く売れるといいんだがなぁ」


 頭が手を振り下ろすと、地面から巨大な岩の槍が現れ、注連縄が巻かれた大岩の横から激突する。それも一つや二つではない。四方八方から幾つもの岩の槍が出現したかと思えば、それらが砕け散り、同じ場所から再び槍が出現する。

 流石に何度も衝撃を受け切れるはずがなく、岩に罅が入り、砕け散った。その瞬間、注連縄が白く光ったかと思うと、夜の闇に溶けるように霧散してしまう。

 数秒間の静寂の後、少しずつ地面が揺れ始める。次に木々が揺れ、小石が斜面を転がり落ちていく。揺れが最高潮に達したと同時に地面を突き破って、巨大な魔物が姿を現した。

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