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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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基礎の脆さⅤ

 店から出た後、城へと戻りながら正司は勇輝へと説明をする。


「あまり詳しくは言えないが、それは精神や視界に干渉する呪具だ。ガワだけはお守りの形をしているが、その性質は正反対。できれば俺は二度と持ちたくない」

「どんな効果があるんですか?」


 時子は勇輝が摘まんでプラプラとさせているお守りを見ながら眉を顰める。流石に呪具と聞いては触る気にならないのか、観察だけに留めているようだ。


「軽度のものなら、周りの人間が全員敵に感じるくらいです。ですが呪具の中に込められた力が多いと、何もない空間に人が現れて、いきなり襲い掛かってくる幻覚を見始めます。場合によっては痛みを感じることも」


 巴の物騒な説明に勇輝はできるだけ自分の体から離してお守りを見る。魔眼を思わず開きたくなる衝動を抑えて、周りを見渡した。


「何でそんな物騒な物を……!?」

「我々の場合は、すぐに思考を戦闘状態に切り替えるためですね。迷ったら死の世界ですから、一瞬たりとも油断できません」


 勇輝の首筋にヒヤリとしたものが触れる。何事かと振り返ると巴が手を首元に近づけていた。そのまま手を挙げて勇輝の視界に入るように広げると、そこには先に金属が付いている折れた木の棒があった。


「あっ!? いつの間に!?」


 正司が慌てて自分の懐や腰をまさぐる。巴が持っている物品はどうやら彼の持ち物だったようだ。


「もしかして、さっきの矢ですか?」

「はい、ちょっと彼から拝借しました。打根(うちね)というには、少々みすぼらしいですが、これでも十分に首に穴を開けることができます」

「――――幻覚?」

「いえ、今のはちょっとした例です。驚かせてしまったなら申し訳ありません」


 首に突き刺された想像をして勇輝の顔から血の気が引いていく。こんな光景が四六時中襲ってくるというのは心臓に悪い。

 人間の思い込みの力は想像以上に強い。熱した鉄の棒と勘違いさせて触れさせたら火傷のような跡が浮かんだなんていう実験記録もあるほどだ。あまりの衝撃に心臓が止まってしまったら、本当に死ぬかもしれない――――そんな気がして、勇輝は頭がくらくらしてくる。


「因みに寝ている時は、常に誰かと戦う夢になる」

「俺、やっぱり返してこようかな……」


 最早、嫌がらせ以外の何物でもないように思えるが、効果に関しては冷静に考えると、メリットでもあることは勇輝も気付いていた。


「(一応、死ぬことなくいつでも敵との戦闘を学ぶことができるという点に関しては、経験が少ない自分にはありがたい。でも、もう少し穏便に過ごせるものが良か――――)」


 ほんの一瞬、視界の端に明らかに周りとは違う速度で動いてくる人影を捉えた。思いきり地面を踏みしめた音が耳へと届く。

 思いきり体を逸らすと、首があった所へ短刀が突き出されていた。

 ギリギリで躱した勇輝は安全な距離を取ろうとして、目の前の短刀がそのまま真横に薙ぎ払われる。


「――――ッ!!」


 喉を切り裂かれた。痛いというよりも、じんわりと何か温かいものが広がっていく感覚に戸惑いを覚えた。

 青海波模様の小袖を着たちょんまげ頭の男が表情の欠落した瞳で勇輝を見つめている。遅れて、左手を首へと持って行くが、そこには血どころか傷跡一つ付いていなかった。


「早速、効果があったみたいだな。今の反応からすると、かなり気合が入った呪具と見た」

「痛みほど……ではないけど、嫌な感触があった」


 勇輝が瞬きすると、いつの間にか男の姿は消えていた。

 辺りを見回すが、同じような服装の男はおろか、短刀を手にしている人は一人もいない。


「残念ですが、今の様子から察するに首を斬られて死亡ということですね。魔法を使えない状態だと流石に反応が遅くなりそうです。気や魔力を体に巡らせるのも禁止となると、かなり厳しいのではないですか?」

「久義殿のことだから、それをやったらやったで、それに対応した幻覚が襲ってくる可能性があります」


 正司が呆れ半分といった顔で時子へと答える。

 しかし、即座に表情を一変させると、勇輝の前へと歩を進めた。


「とりあえず、刀の使い方の基礎くらいは今日中に教えておこう。最低限、握り方と素振りの仕方くらいは速攻で覚えてもらわないと困るが、やる気はあるか?」

「……もちろん」


 元々、剣術に興味はあった部類だと思っている。本職に教えてもらえるなど願ったり叶ったりだ。何より、これから強大な魔物や敵が待ち受けている可能性がないとは言い切れない。むしろ、今までの経験からすると、ヤバい敵がうようよと湧いて出てくる方が十分あり得る。

 正司は幻覚を見たばかりだというのに、勇輝の瞳に力が宿っていることを確認すると、満足そうに頷いた。

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