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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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基礎の脆さⅣ

 いくら巾着に入る量とはいえ、今の情報に対して渡すには多すぎる貨幣の量だ。

 流石に正司も勇輝の腕を握って、それを降ろさせる。


「お、おい。いくら何でも今のでそれ全部渡すのか!?」

「ここは首都なんだから冒険者ギルドから金なんていくらでも引き出せる。自分の命を預ける武器だからこういう時くらいしか溜め込んだ金を使う機会がないんだよ。それに、正司さんの知り合いってことは下手な仕事はしないんでしょう?」

「た、確かにそうだけどな……。限度ってもんがあるだろ。それだと大体銀だから……五十(もんめ)くらいあるんじゃないか?」


 国が違えば貨幣の価値も当然違うのだろうが、ここに来るまでに桜と予習した内容では、王国金貨一枚はこちらの金の小判一両と同価値になるように作られている。同じように銀一匁は銀貨一枚。同一文は銅貨一枚だ。ただし、この国では白金貨で貨幣を作るという習慣が無い為、大口取引になると小判が山のように並ぶことになる。

 つまり勇輝は五万円を自分にあった武器の情報のごく一部の為だけに払ったことになる。これにはアドバイスをするトレーナーや採寸をする服飾などの職業人が見ていたら唖然とするに違いない。


「刀はもっと高くなるんだ。ここで言う小判を最低でも十枚は並べなきゃいけない。下手すると自分に合っていない刀を掴まされる可能性も考えたら安いくらいかもしれない」

「はっ。わけぇのによくわかってるじゃねえか」


 正司がいるのも構わずに久義は奪い取る様に巾着を受け取る。それと同時にもう片方の手で木刀を押し付けてきた。


「これは……?」

「振って見ろ。とりあえず、体つきだけじゃ詳しくはわからん。それを見て少しばかり細かいところまで決める。さっさとやってみぃ」


 後ろを振り向いて時子の位置を確認すると、既に彼女は距離を取って成り行きを見守っていた。どうやら 何事にも関心を持ちやすいタイプなのか、興味津々といった様子で期待に満ちた眼差しを送っていた。


「じゃあ、いつも通りの素振りでいいですか?」

「構わん、さっさとやれ」


 一度息を吸い込むと勇輝はフェイと共に毎朝やっていた素振りをその場で行う。腕を思いきり振り上げ、一息に振り下ろす。風を斬る音がビョウッっと鳴り、膝のあたりで切っ先がピタリと止まる。

 それを十回ほど繰り返して、正司と久義の顔を見ると二人とも口を閉じたまま顔を見合わせていた。その内、正司が気まずそうな表情で勇輝に問う。


「おめーさん。今まで刀を握ったことは?」

「二ヶ月前に握ったのが初めてだって言わなかったっけ? 魔法も刀も今までほとんど触れたことはないんだ」


 それを聞いて、久義は大きくため息をついた後、正司へと顔を向ける。


「坊主。この小僧に素振りのやり方くらい教えてやれ。よくこれで今まで生きてこれたもんだ。どうやら、こいつの戦った魔物は相当生温いらしい」

「は、はい。わかりました」


 あれだけ苦労した魔物たちを温いと一蹴されたことに勇輝は腹立たしさを覚えながらも、刀の使い方を知っているわけではないので黙っていた。ただ、その気持ちは表情に出ていたのか久義が嫌らしく笑っていた。


「何ですか?」

「何、ちょっとした博打を思いついたのよ。どうせなら、少しばかり面白い賭けをしてみたくなった。水姫の小娘に、北御門の護衛を引き連れて来ただけでも大層驚かされた。だが、おめーさんはどこから見ても素人なのに、俺の勘が違うと囁くんだ」


 そのまま一度背を向けて、何かを探しながら久義は話を続ける。


「それに俺が刀の長さと反りを伝えただけなのに、それを価値があると判断した。ただの金持ちじゃない。俺たち職人に対する敬意のようなものを感じた。だったら、こっちもそれなりに答えてやらねーとなぁ」


 そう言って、久義は勇輝が渡した巾着袋よりも二回りも小さい何かを投げ渡した。よく見るとそれは神社など見かけるお守りのようなものだった。


「久義殿、流石にそれは……!?」

「坊主は黙ってろ。おい、小僧。それを肌身離さず持っていろ。今のままじゃ、背丈半分の餓鬼にもやられるほどの未熟さ。少しばかり酷い目に合うが、危機に陥った時には、それが合ってよかったと思うはずだ。間違っても中身は見るなよ」


 久義はそれだけ言うと、店の奥へと引っ込んで行った。

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