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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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基礎訓練Ⅲ

「グッ……ゴホッゲホッ……」


 横腹に綺麗に入ったせいか、咳き込んでいるフェイがいた。本人はきっと、なぜ自分が地面に蹲っているのかを理解できていないに違いない。


「さて、少年」


 クリフが槍を軽く一回転させて構える。そこには先ほどの微動だにしない姿があった。


「君はどうする?」


 その言葉に、ユーキは一度深呼吸をして眼を開けた。魔眼の力による行動の先読みだ。


(フェイの時のように、攻撃を予測して動いて見せ――――!?)


 ユーキは愕然とした。クリフの色が()()()()。正確には後光のように実際の体からはみ出して見える余分な部分がほとんど見えない。愕然と目を見開くユーキの耳にクリフの言葉が届いた。背筋に悪寒が奔ると同時に、ユーキの体は勝手に動いていた。


「『見に徹する』のは、よほどの力を持っていないと悪手だぞ」

「――――うっ!?」


 避けれたのは奇跡だろう。ほんの一瞬だけ、光が自分の眉間に向かって伸びたのが見えたので、全力で転がったところ、運よく回避につながった。尤も、槍の先は既にユーキへと向けられている。だが、その槍はすぐに横側に薙ぎ払われた。


「――――これは予想外」


 その言葉の後に、炎弾が数発と風切り音が通り過ぎていく。

 サクラとマリー、アイリスの魔法が次々に放たれたのだ。恐らく、このままではジリ貧で負けると思ったのだろう。当初の作戦とは違う形だったが、クリフへと魔法が吸い込まれていく。


「いや、若者と侮った儂も油断してたな。危うく一撃をもらうところだった」

「嘘でしょ!?」


 先ほどの炎弾を振り払った時の数倍。もはや軌跡を追うだけで精いっぱいの速さで、槍が高速で薙ぎ払われる。槍によって魔法が放つ光をユーキは魔眼で捉えていたが、槍の動きはもはや一種の壁となって立ちはだかっていた。

 そんな槍の壁が弾け飛んだように見えたので、ユーキは顔を庇って、後ろへ下がる。しかし、もつれた足が体についていけず、その場で尻もちをついてしまった。その後方から軽快な声と三人の悲鳴が響く。


「ほれ、一、二、三っと」

「いって!?」

「あう!?」

「ッ!?」


 マリー、サクラ、アイリスの順に槍の柄で頭頂部を軽く小突かれる。いつの間にか、三人の近くまでクリフが移動してきていたのだ。頭を押さえる彼女らを尻目に、軽く息を吐きだしたクリフは振り返って、石突を地面に当てて声を上げる。


「さて、一度休憩と反省会を挟んだら特訓再開だ」


 そう言うと、近くの石の階段にいち早く腰掛ける。頭を押さえ続ける女子三人組。お腹を押さえながら立ち上がるフェイ。そして、足が震えてなかなか立ち上がれないユーキ。その様子を見て、クリフはため息をつく。


「まったく、最近の若者は……」


 きっとどの異世界、どの時間軸でも人間がいたら言われてきたであろう言葉を、例外なくこのご老人も呟いた。





 全員が落ち着いて、クリフの周りに集まったのを確認してクリフは口を開いた。


「さて、とりあえず反省会だ。何か今の戦闘で思ったことを言ってみなさい」


 全員の顔を見渡しながら、クリフが問いかけるとフェイが手を挙げた。


「全く手が出せませんでした。近寄ったらやられるという気持ちでいっぱいでした」

「そうだな。前衛を務める者が一番もっていなくてはいけない危機感。間合いの読みあい。特に儂くらいになると一歩踏み出すだけで、相手が刺されたような感覚に陥るくらいだ。その感覚は忘れないようにしないといかんな」


 次、と発言を促すようにまた周りを見回す。次に手を挙げたのはアイリスだった。


「ユーキとフェイが、邪魔で魔法が、撃てなかった」


 グサッとユーキとフェイの心に見えない棘が刺さる。作戦立案したフェイの方が少し強めに棘を感じているだろう。本当にやられたように胸を押さえている。


「まぁ、あれは悪手……というよりは仕方のないことかもしれんな。後衛を放ったままなら、儂は間違いなく、そちらを先に殺しに行く」


 ――――殺す。

 その言葉に、全員が悪寒を覚えた。あの戦闘で、五人は殺されたのだ。生きているのは実戦ではなかったから、という理由でしかない。


「儂が一人で、前衛が複数いると邪魔で狙えん。やるとするならば距離を放して魔法をまず撃ち込んで、疲れさせたところへ前衛が飛び込むとか方法はいくらでもある。もちろん、その対処法もあるがな」


 フェイがクリフの言葉が紡がれるたびに胸から胃のあたりにかけてを手で押さえ始める。見ている方がだんだん可哀そうになってくるくらいだ。


「そういう意味では、マリー嬢ちゃんの炎弾魔法は良かった。得意なのかね?」

「元々一番練習してたのは風の魔法だけど、気を引くためには炎の方がいいかなっと思って。それに昔から火の魔法は良く使ってたから自信あったし」


 その言葉にクリフは満足そうに頷いた。


()()()()()()()()()()()()()。これを上手に使いこなすこと。それが戦闘における必須テクニックだ。もし上級の使い手なら炎の後ろに風魔法を仕込む、といった高等技術もある。先程、三人でやっていたことだな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は可能だ。後は、他にどんな組み合わせがあるかを試すと良いだろう」


 クリフは、その後も一人一人の疑問や感想に答え、いろいろな戦闘の方法を解説していく。その中で、魔法使い組三人には、クリフがこう言った。


「魔法使いの戦闘は大きく分けると三つある。後ろから強力な魔法を放つ砲撃型。仲間を回復させたり、罠を張り巡らせたりする魔法をかける陣地型。そして、近接戦闘で翻弄しながら戦う剣士型だ。別の言い方をすると敵からどの位置にいるかで魔法の使い方が変わってくる。ただ、今回からの経験で言うと圧倒的に近距離での経験が少なすぎる」


 中指の関節で地面をこつんと叩くと、クリフはそれぞれの課題を提示した。その上で全員に必須の課題は「近距離での戦闘」の経験と自分の「技の使い方」をひたすら考え、どう仲間と組み合わせるかの実践を積むことだった。

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