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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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基礎の脆さⅠ

 書店では和本・洋本様々な形態の書物が並んでおり、奥には巻物まで並べられているという様相で、勇輝の知っている本屋とは、また違った雰囲気に包まれていた。

 匂いも独特で、人によっては嫌う人もいるかもしれないが、少なくとも、勇輝にとってはどちらかというと馴染み深いとさえ感じた。


「ファンメル王国からの魔法書ともなると高くなってしまうので、基本的には借りて写すんです。先日、やっと許可が出たおかげで学び始めることができてほっとしました」

「え、何で許可がいるのさ?」

「母が言うには、『魔法書なんて借りたら朝から晩まで読みふけった挙句、次の日の朝に書類をその魔法で吹き飛ばしてしまうでしょう?』と。流石にそんなことはしません」


 心外だとばかりに頬を膨らませるが、見ず知らずに人間にお試し感覚で魔法を放って窒息死しかねなかった状況を考えると、彼女の母親はよく自分の娘を理解しているようだ。

 最初は火の魔法を使うのが一般的だと桜には習ったが、勇輝はそのことを伏せておくことにした。次の日に城が火事にでもなっていたら目も当てられない。それ故に、そう言った火魔法関連とは別の魔法の書を探し、目を通して被害が少なそうな魔法を探す。


「これなんてどうですか?」

「『水魔法汎用から応用まで』……ですか?」


 ファンメルの魔法学園では汎用初級・中級。上級と四属性の基本を積み上げていく形の指導計画が行われている。

 しかし、書籍として出回っているものであれば、一つの属性に特化して詳しく記した書物も存在する。あちらの国でも試験が迫ると苦手な魔法を何とかしようとして、このタイプの本を読み漁る生徒が存在するくらいには重宝されている。


「俺に魔法をかけたのも水魔法の一種だし、何より水――――」


 水姫、と単語を出そうとして勇輝は固まった。こんなところでそんな役職を言ってしまえば、周りの人にどんな反応をされるか。


「水姫だから水魔法がいいだろうということですか?」

「そうですけど……あれ、正体とか隠さなくても大丈夫だったりします?」


 勇輝が驚いている姿を見て、時子は軽く笑った。


「もちろんです。そもそも城から堂々と出てきているんですから、正体を隠すもなにもありません。すれ違った人は、みんな私が水姫であることは理解していますよ」

「そんなことになったら、普通は大騒ぎになるんじゃ?」

「私は確かに色々と国を動かす立場にいますし、言ってしまえば命を狙われる可能性も十分にあります。でも、見えないだけで護衛はたくさんいます。それに私がこうして外出するのは、基本的に息抜きが多いので、皆さんが声をかけてくることもありません。きっと私に気を使っているんだと思います」


 苦情はしっかりと手続きを踏めば私の下にも届きますし、と言いながら勇輝の示した本を手に取る。最初のページを開いて読んでいるようだが、その目は真剣そのもので、とてもではないが話し掛けられない雰囲気を纏っていた。

 その様子は後ろで見ていた巴と正司も感じ取っていたらしく、かなり距離を開けて店の外から二人を見ている。


「……先のとは別の信号弾が上がったようだが?」

「赤二つ。残りの賊か魔物が襲撃してきた可能性あり、という感じか」

「彼には煙が消えるまで店内にいてもらおう。下手に動いてもらっては面倒だからな」


 二人は顔を合わせずに店内と店外をそれぞれが見張りながら呟いて会話を続ける。護衛以外の跡をつけているだろうと思われる人物の確認と情報交換は特に大切だ。遠くから矢を放った仲間も警戒してくれているが、この人ごみの中だと簡単には動けない。


「次は武器屋だが、その点に関しては中にいる人間は警戒した方がいいな。なにせ手ぶらで来ても凶器なら選び放題だ」

「その時は捕縛を頼みますよ。私は加減を誤って殺してしまいかねないので」

「……絶対面倒なだけだろ」


 その後、短く正司の悲鳴が上がった。どうやら後ろ手に尻を抓られたらしい。町人が何事かと一瞬、正司を見て通り過ぎていく。涙目になりながら正司は勇輝たちが出てくるまで尻を擦り続けていた。

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