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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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因果の糸Ⅲ

 アンガスが馬車を退かすと鼻を鳴らして、商人は去って行こうとする。

 しかし、山賊たちの真横に来た時に馬車を止めて、後ろの積み荷をすっと確認した。


「おい、その山賊どもはどうするつもりだ」

「次の宿場町まで運ぶ予定だ。今、こっちに専門の部隊が向かっている」

「十数人とはいえ、たかが山賊だ。魚のように寝転がしておくのなら運ぶこともできる。手を貸してやろう」


 先程までの態度が一変する。口調こそ雑ではあるが、そのような奉仕精神を発揮するような人間には見えない。隆三が疑っていると、それを察したのか商人は更に捲し立てる。


「こっちは来たばかりで知り合いもいない。ちょっと善行を積んでおけば、宿場町や首都のギルドの人間には顔を覚えられるだろう。俺に任せておけば、あんたらもここで時間を潰さなくても済む。違うか?」

「――――と言っているがどうする?」


 縄で縛り終えた男に翻訳して伝えると、腕を組んで難しい顔をする。

 曰く、「ここに向かっている馬車の容量的にも問題はない。だが、善意で運搬や移送に協力してくれる場合、拒否する理由もない」という。実際、協力を申し出る商人は彼以外にも存在し、宿場町や商人ギルドで売買時に有利になることもあるのは事実らしい。


「だから運んでくれるなら、お願いしたいところってのが本音ですわ。後から来る方も馬に負担をかけなくて済む」

「いいんじゃない? サクラちゃんの為にこの人にお任せしちゃうのも。今ならそんなに時間はかかってないし、許容範囲でしょう」


 ペネロペが桜の肩に手を置いて、隆三へと意見を出す。アドルフも手を挙げて賛成を口にした。


「他の賊が狙ってくるって可能性もなくはない。できるだけ、信号弾が上がったこの場を立ち去りたいって言うのが俺の意見だ。あっちは金儲けの機会が増える。俺たちは時間を無駄にせずに済む。互いに益のある話だ。損得の話なら商人ほど信用できるものはないと思うぜ」


 ちらりと一瞥すると商人もまた大きく頷いていた。二重顎になりかけの顔がぶるんと大きく震える。脂ぎった顔の裏にはきっと金儲けのことしかないのだろう。ここにいた誰もが同じことを思ったに違いない。


「じゃあ、後はこの商人さんにお願いするとしよう。さっさと後ろに放り込んで――――」

「いや、結構。積み荷はできるだけ他人に見せたくない。情報というのも立派な商材だからな。こう見えて、重い物を運ぶのは慣れている。あんたらは先に行くと良い」


 御者台から降りてきた商人は肩に手を当てながらグルグルと回して調子を確かめている。小太りではあるがガタイは良く、実際に力もあるのだろう。一番最初に処理された山賊の腰を掴むと、まるで鞄でも持ち上げる様な気軽さで抱きかかえた。


「……俺たちは行くが、構わないか?」

「えぇ、あっしの仕事もこれで終わりなので、積み終わったのを見届けたら、こっちに向かっている仲間と合流する予定でさ。道中、お気をつけて」


 釈然としない顔のまま隆三は、アンガスの操る馬車へと向けて歩き出す。それを見て桜たちもその後を追った。


「何か、おかしなことでもあるんですか? ずっと難しい顔をされてましたけど」

「あぁ、それはもう少し離れてからにしよう。あまり聞かれたくない」


 桜の疑問に隆三は答えるのを保留し、馬車へと乗り込む。手を差し伸べて一人ずつ馬車の荷台へと引き上げた後、商人の馬車が見えなくなるまで、後ろからその様子を窺っていた。

 何度か左右に大きくうねりながら進む道を進んで行くと、商人の姿は豆粒ほどになり完全に視界から消えた。


「今回は桜の嬢ちゃんが急いでいるから、こんな行動をとったが……果たして正解だったのかわからんな」

「どういうことですか?」

「あの商人は嘘をついている可能性が高い」


 隆三の表情は険しさを増した。

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