因果の糸Ⅰ
信号弾が上がってから、二十分ほどが経過していた。
山賊たちはタイミングをかなり見極めていたのだろう。前からも後ろからも桜たちとすれ違う馬車はいなかった。
「それで? 何で私たちを襲ったの?」
「はっ、いい体した姉ちゃんだな。どうだ、今からでも遅くねぇ。そっちのちんけな男どもなんて放っておいて俺たちと――――あちゃちゃちゃちゃっ!?」
「馬鹿野郎! 俺たちまで巻き添え食うんだ。その軽い口を閉じてやがれ! 後でしっかり縫い合わせてやるからな!」
気絶した山賊と眠りこけていたペネロペが目を覚ましたのは、ほぼ同時刻だった。彼女は欠伸をしながら物珍しさに近寄って話を聞こうとするが、当然ながら山賊たちは口を割るはずもない。そして、それ以前の問題で言葉が通じていないが故に答えようがない。翻訳の魔法を使っていない状態では、白銀の風のメンバーの中でアドルフが辛うじてぎこちない会話ができるくらいだった。
顎髭が燃えてボロボロになっていく様を見ながら、隆三は縄で縛られた山賊たちを見回した。身なり、体の汚れ、武器の状態。その一つ一つを見ていくと、どうにも怪しいところが見つかるからだ。
「翻訳しないで聞くと、まったく何を言ってるかわからないけど、馬鹿にされてるのだけはわかった。とりあえず、もう少し強火でやっておこうか」
「ひいいいっ!?」
杖の周りで少しずつ膨らみ始める火の球を見て、抵抗する気が失せたのか。その表情は恐怖の色に染まり、歯がガチガチと音を立てていた。賊として捕まった時点で命は合ってないようなものだが、拷問を喜んで引き受けるかどうかは話が別だろう。
隆三は後ろから近づくと悪そうな笑みを浮かべるペネロペの肩を叩く。俺に代われと目が語っていた。
「よう、兄ちゃんたち。これから、二つ三つ質問があるんだけど答えてくれないか。あまり面倒なのは嫌いなんだ」
「けっ、我がまま体形姉ちゃんはもう引っ込むのかよ。俺たちに何か聞いても下っ端だからわからないぜ」
「下っ端ということは別動隊か、幹部がいるってことだな? 最近の情報からすると、ここらに移動してきた賊というのがお前らのことか」
「……」
聞かれる前に自ら情報を出してしまった迂闊さに口を閉じてしまうが、それは隆三の言葉を肯定しているも同義だ。
「俺としてはお前さんたちが、どこの誰かなんてのはどうでもいいんだ。だが、少し気になることがあってな。山賊というには身綺麗すぎる。装備も潤沢だ。最初は山刀程度と思っていたが、近くで見ればいい代物だ」
没収した武器の山から一本何気なく掴み上げて近くの木へと投げつける。さほど力を入れて投げたようには見えなかったそれだが、触れた茂みの枝を綺麗に切断し、木の幹へと突き刺さった。
「これだけ良い物だと相当高かっただろう。仮に奪ったとしても、手入れをしっかりしなけりゃ、ただの鈍ら。これだけの本数を揃えるのは大変だ。恐らく、どっかの商人からまとめて買うか奪ったか。奪ったのならどこかに記録が残るし、買ったのなら資金源はどこだという話になる。いずれにせよ、どれだけの被害が出ているかは調査しないといけないよな」
ごくりと生唾を飲み込む山賊に隆三はにやりとほくそ笑む。
「まぁ、調べるのは俺じゃない。言い訳や悲鳴は引き取られた後で喚くんだな」
「う、うるさい! 誰にも迷惑かけずに……いや、むしろお前らのようなやつの為にもなるようにして儲けた金くらい、使ったっていいだろうが!」
「はいはい、それじゃあ、もう少しおねんねしておきましょう、ね゛!」
鈍い音が山賊の鳩尾から響く。音もなく崩れ落ちた山賊だが、力加減を誤っていれば死んでいたかもしれない。傍から見ていたアドルフとアンガスは苦笑いをしながら、誰か通りかからないか見渡す。
すると、前方から土煙を上げてねじり鉢巻きをした軽装の男が走って来た。
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