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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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魔法禁止令Ⅶ

「彼女とはちょっとした幼馴染です。お父様も以前は、このお城にお勤めでした。様々な事情で今は東のとある村で過ごされていますが」


 どこか寂しそうに告げるが、それも一瞬。すぐに顔を上げると、煙の上がった空を指し示す。


「赤は襲撃されたことを、青は撃退または捕縛したことを示す狼煙です。魔物か山賊かはわかりませんが、無力化には成功しているようです。この後、各宿場や詰所から専門の方々や冒険者が出撃することでしょう。その為、私たちが急いでい行くよりも、早く助けが向かっているはずです」

「そうか。それなら安心だ」


 心の中で万が一のことがあってはいけないと考えていた勇輝は徐々に冷静になる。ただ、その過程でどこか不安な気持ちが残っていた。桜が無事かどうかということももちろんあるが、自分はここまで焦って行動する人間だっただろうか。


「それにお婆様には魔法の使用を禁止されているのでしょう。身体強化も使わない状態だと厳しいのでは?」

「む……」


 時子の言う通り、身体強化を使えない、ガンドも放てないとなると、足手纏いになる可能性が高い。それならば、この街でしっかり疲れを取っておくほうが合流してから役立つだろう。


「休むのも鍛錬ってことです」

「正司、それは自分が仕事をしたくない言い訳では?」

「うぐっ……!?」


 横から助け船を出したつもりが藪蛇を突く形になってしまった。冷や汗をかきながら表情を固まらせた正司は勇輝と眼が合うと苦笑いを浮かべる。


「正直、鍛錬は苦手で」

「基本的に何事も鍛錬は苦しいので気持ちはわかりますよ。……というか、護衛のお二人も敬語止めません? 話しにくくないですか?」


 二人は勇輝に言われて顔を見合わせるときょとんとする。

 先程、正司が勇輝を呼び止めた時は、普通に話をしていた。その後に敬語を使われると体がむず痒くなってしまう。


「――――まぁ、そちらが気になるというのなら使わないこともできるが」

「えぇ、その感じでお願いします。特に正司さんみたいに年上の方から敬語を言われるよりは、バシッと言ってもらった方が楽なので」

「あ、じゃあ私もお願いします。外にいる間だけで構いませんので」


 時子も流れにのって来ただけなのだろうが、その瞬間に二人の表情が凍る。恐らく、姫という立場の人間からのお願い(命令)と自分たちの世間体を考えてのことだろう。もし、上司や他の所属の者に知られたら、何を言われるかわからない。

 詳しいことを勇輝は知らないが、この国には不敬罪という物がありそうな気がしてきて、だんだんと勇輝も顔が青ざめていく。


「(あれ? もしかして、俺って……結構危ない状況だったりする?)」


 ギギギッと首を動かして時子の方を見ると、悪意など微塵も感じさせない笑みを向けられる。彼女に悪気は本当にないのだろう。ただ、周りの世界がそれを許してくれなさそうな気がするだけだ。


「じゃあ、とりあえず書店に行って、その後は武器とかも見たいかな。元々、刀を使ってたんだけど、溶けちゃったから」

「お、おいおい、刀を折るならまだしも刀が溶けるって何だ? ちょっと、お兄さんに教えてくれよ」


 急に砕けた口調になった正司は勇輝の肩を掴むと、書店があるだろう方向へ連れて行ってしまう。数秒ほど、それを見送った時子と巴は顔を見合わせてぼそりと呟いた。


「逃げましたか」

「はい、逃げたようです」

「あなたは敬語を止めてくれないんですか?」

「彼ならともかく、姫様とあっては承知いたしかねます」

「残念」


 男二人を追いかけるように二人は歩き出す。

 そんな中、時子は巴に問いかけた。


「賊が今年は活発に動いていますが、何か知ってるかしら?」

「――――どうも新たな資金源を見つけた、と聞いています。それも北御門領地での商売だ、と。我々も探ってはいますが、まだ尻尾は掴めていません。怪しいのは国内ではなく国外だと疑ってはいます」

「……密輸。しかも、北御門の『眼』をすり抜けるとなると、よほどうまく誤魔化しているか。一回の取引が高価で、回数が単純に少ないか。いずれにせよ、兵を動かす必要がありそうね」


 薄く消えていく煙を見上げながら時子は、友人の安否を心配する。巫女長が見張り、無事に辿り着くと宣言している以上、大丈夫だと信じたい。それでも、何かが起こってしまうのではないかと、気がかりになるのが人間の性というものだろう。

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