魔法禁止令Ⅵ
店から出てきた勇輝は、お腹を擦りながら満足気に空を見上げる。大きな雲がぷかりと一つ浮いているのが、まるで天にも昇るような気持ちの勇輝の心を表しているようだった。
正午よりも大分前だったこともあり客は少なく、すぐに入って食べられたのも気分がいい要因の一つだろう。
「おいしかったですね。でも『蛇』なんて名前のお店、最初は物騒で入る時に驚きました」
「私も最初に来た時には驚きましたよ。なぜ蛇なんて名前でお蕎麦を作ってるか……わかります?」
時子が振り返ると、巴は首を横に振る。
そのまま視線は正司に行くわけだが腕を組んで頭を捻る。
「いや、聞いたことないですね。でも、店の主人に一度聞いてみたら先々代が名前を付ける時に『藪があるなら蛇も出るだろ』と言って付けたとか。結局、その理由はよくわかりませんけれども、藪蛇と何か関係があるのでしょうか?」
顔を横にずらすと太い筆で大きく蛇と書かれた横に藪蛇の絵が描かれている。リアルなそれではなく子供が描いたような落書き風なところに愛嬌を感じられた。
行き交う人々もここが食事処だからか、そこまで人が多くないので余裕をもって歩けそうだ。前に時子と勇輝が、後ろを巴と正司が続く。
「次はどこに行きますか?」
「そうだなぁ……個人的には魔法に関する本とか読んでみたいけど、こっちだとそもそも魔法の形式が違うから一からの勉強になりそうだ」
「もしかして、あなたも魔法に興味が!?」
時子が凄い勢いで食いついてきた。何事かと仰け反る勇輝だったが、そもそも初めての魔法を使って喜んでいた女性と時子が同一人物であることを思い出すと、その反応も頷けるというものだ。
「まぁ、一応、少しだけファンメルの魔法学園にいたので。あ、でも受けていた授業は少なかったので、教えられることはあまりありませんよ?」
「いえ、構いません。こうなったら、ちょっと書物問屋へ行きましょう。このまま左に戻って一つ上れば、私がよく行くところがあるんです。最後に行ったのは一ヶ月ほど前なので、新しい書物が入っていればいいのですが」
居ても立っても居られないといった様子で、その場で足踏みをする時子。
「そ、それならそのお店に行き――――」
――――ドンッ!!
――――カンカンカンッ!!
花火が弾けるような音に遅れて、どこか遠くから明らかに街の中では聞くことのない金属音が響いてくる。勇輝だけでなく周りの人も騒めいているが、勇輝と違って空を見上げて何かを探しているようだ。
「どこかで緊急信号を撃ち上げた人がいるようですね。東と西には見えませんが……」
「それじゃあ南北で見るしかないな。城の前にある大通りまで進む!」
正司が人込みを避けるように先陣を切る。それに遅れまいと、勇輝たちも走り出した。
大きな開けた通りが近付いてくると、何人かの人々が手を挙げて城の方を指し示しているのが目に入ってくる。
「まさか城で何か!?」
「いえ、そうではなさそうです」
慌てる時子を巴が制する。視界が開けた瞬間に、城の方角に赤と青の煙が上がっているのが目に入った。一見、城の中で事件が起きたように思えるが、よく見るとその煙は城の遥か後方で上がっているのが見えた。
さらにその先にも、微かにではあるが同様の煙が点々と上がっている。
「北の山道で魔物か賊でも出たようですね。確か、あちらではどこか別の所で暴れていた盗賊が移動してきたという噂が出ていたはず」
「――――ッ!?」
思わず走り出そうとした勇輝の腕を正司が掴んで引き止める。
「おい、どうしたんだ!?」
「俺の知り合いが洞津からこちらに向かってきているんだ。もしかしたら、被害に遭ってるかもしれないだろ」
「今からそれを助けに行こうって?」
「その通りだ」
まるで丸太のような二の腕に一本一本が勇輝の二倍はあるのではないと錯覚するような太さの指。そんな手を勇輝は振りほどけずにいた。
「装備もないのにか?」
「……あっ」
とりあえずで買った両刃の剣がないことに気付き、勇輝は抵抗していた腕の力を緩める。
「お婆様も言っていたでしょう。護衛がいるから安心しなさいと。大丈夫です。桜ちゃんは無事到着しますから」
「もしかして、桜と……知り合い?」
気軽な呼び方をする時子に勇輝は不思議そうに尋ねる。彼女は満面の笑みで頷いた。
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