魔法禁止令Ⅳ
行きとは違って、大手門に辿り着くのは容易かった。案内があったということもあるが、一直線と言っても過言ではないくらいスムーズに進んだからだ。
「(おかしい。俺が姫様と会った後、不自然な程に左右へと曲がった記憶がある。それにこんな通りやすくしてたら攻め込まれた時に、一気に雪崩れ込んでくるぞ?)」
城というのは左右に曲がりくねっていたり、門を狭くしたりして矢や鉄砲などの攻撃を多方向から狙えるようになっていることが多い。敵の進軍を鈍らせ、攻撃を確実に当てて殺すという目的の為の創意工夫が城の堀や塀に隠されているのだが、その気配がほとんどしない。
「どうされましたか?」
「いえ、俺が来た時とは全然違うというか、すんなり通れることに驚いているというか」
時子の質問に正直に答えるとその歩みが止まった。振り返って、いくつかある塀を見ながらニヤリと笑う。
「虎口や馬出が見えないってことですね。それは見えないように誤魔化しているというか、本当に存在しないというか……あったら出入りするときに面倒じゃないですか」
虎口や馬出という物が何かはわからなかったが、少なくとも、本来あるべきものがこの城には存在しないという驚きに表情が固まる。首都ゆえに攻め込まれることはないという自信の表れか。それとも今までに攻め込まれたことがないことからくる油断か。
いずれにしても、そのことを城に住む者自らが口に出すということは、何かしらの秘策があるのだろう。
「そもそも、ここまで攻め込まれるとなると国としては復興するのにかなりの時間がかかるほどのダメージです。外海勢力は島外で倒し、内憂勢力――――いわゆる魔物や妖と呼ばれる者――――は冒険者や兵たちに街の外で狩らせるだけの話。巫女や陰陽師といった方々の結界もありますから、心配はいりません」
「まぁ、それならいいですけど……」
スムーズとはいっても何分もかけて歩き、やっと一番外の塀へと辿り着く。その先は橋が架かり、水堀で仕切られた街と城を繋いでいた。
その先には多くの人々が行き交っている。服もよく時代劇で見る和装の人もいれば、洋装の人もおり、ファンメル王国で見かけたような装備を付けている人もいる。髪型も髷を結う人は少なく、それこそファンメル王国と相違がないほどだ。もしかすると、王国との交流が盛んなためか文化の交流の変遷過程が勇輝の知る日本とは異なるのだろう。
「ところで、姫様? 立場上、俺の方が身分が下なので敬語とか使わなくていいですよ?」
「いつも偉そうな言葉遣いで疲れるから、こっちの方がいいです。年もあなたの方が上でしょうし……。それに万が一、咎められたとしてもお婆ちゃんの曾孫だって言えば、納得してくれます」
そこまで言ったところで、あっと口に手を当てて時子は視線を勇輝に向けた。
「ごめんなさい。いつもの癖で巫女長のことをお婆ちゃんと呼んでしまって。本当の家族の方からしたら不快でしょう?」
「いや、血がつながってない近所のご老人方を、お爺ちゃんやお婆ちゃんって呼んでも問題はないでしょう? 俺もそう言ったことありますから」
「そう? じゃあ、これからも言ってしまうかもしれませんが、大丈夫ってことですね?」
「何も問題はないです」
その言葉に安心したのか時子は笑顔で再び前を歩き始める。
この後、食べ物屋に行くということだったが、一体何が食べられるのか。久しぶりに本場の米が食えるか、と勇輝は少しばかり気が向き始めていた。牢に入ってからここまでで約十四時間。何も食べていないのだ。街中で空腹ということもあり、油断してしまったのは仕方のないことだろう。
――――キンッ!!
勇輝の近くで金属が鳴り響く音が聞こえた。
慌てて振り返ると、そこには刀を抜いた巴と正司。遅れて橋へと落ちる矢。勇輝は初めてそこで襲撃に遭っていることに気が付いた。
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