魔法禁止令Ⅲ
時子は勇輝の硬直した表情に頬を膨らませた。
「何ですか? 私では不満ですか?」
「いや、不満というか恐れ多いというか、勝手に護衛もなしに出て大丈夫なんですか? あと、話し方変わってません?」
「質問の多い男は嫌われますよ。まぁ、答えてあげますけど」
そう言って時子は顎で後ろを指し示す。そこには男女二人が刀を腰に差した状態で立っていた。二人とも剣道着のような恰好をしており、正に武士といった雰囲気がある。何より、その目つきは目を合わせるのも戸惑ってしまう程鋭かった。
「護衛はこの二人がやってくれます。あなたをここまで案内したのもこの二人ですよ」
そう言われると二人は一歩前に出た。
「北御門家に仕えております。名は正司」
「同じく、名は巴。秘匿の護衛任務とはいえ、数々の御無礼。お許しください」
頭を二人そろって深々と下げるので、勇輝は慌てて頭を上げるようにお願いをする。洞津から海京まで案内してきた五人の内の二人。さらに見張りと案内を継続した挙句、まだ護衛をしてくれるということなのだろう。
流石の勇輝も自身を守るためにしていてくれたことなので、牢に入れられる時のこと以外はあまり気にしていなかった。
しかし、二人は一向に頭を上げようとはしない。頭を下げたまま言葉を続ける。
「俺を守るって言う理由があったんだから、謝る必要なんてないじゃないですか」
「いえ、理由があろうとも礼を失すれば、それは我らの不徳の致すところ。頭を下げるのは当然のこと」
「わ、わかりました。俺は気にしてませんから頭を上げてください」
そこまで告げるとやっと二人は顔を上げた。
「そうですか。助かります。知らないふりをしていましたが、正直、巫女長の血縁者と聞いた時は一度護衛をお断りしようと思っていたのくらいなので」
「えっと、どういうことです?」
「任務を失敗したら、呪い殺されるよりも酷い目に合うことが予想されたからですね。少なくとも、巫女長様の子孫に当たる方は皆、お亡くなりになっているものと我々は認識していたのです。そんな中、唯一の血を分けた者もいなくなったなどとなれば、その怒りはどれほどのものかと」
勇輝はなるほど、と納得する。
勇輝の両親も祖父母もこちらの世界に来るまでは生存していたのは確実だ。つまり、こちらの世界に現れるとしても勇輝と同じかそれ以降。こちらの世界の人間が認識できるはずはないのだ。
それを知る由もない二人は、国の重役のたった一人の血縁者という言葉に怯えていたのだから、必要以上に低姿勢になるのも仕方がないだろう。むしろ、その上で任務時は必要なことと割り切って牢に押し込むという行動をしたのは、プロだからと言ってできることではない。
「いえ、それは寝不足でイライラしていたので思わず」
「おい……」
折角、フォローの一つでもしようと思ったのに、そんな風に言われてはイラッとするのは人として当たり前だ。だが、勇輝が抗議の声を挙げるよりも先に、正司は巴に脇腹を手刀で抉られて、悶絶していた。
「申し訳ありません。この男、少しばかり頭が足りないので」
「ま、まぁ、いいや。それにあまり畏まらなくてもいいですよ。凄いのはひい婆ちゃんであって、俺じゃないので」
その言葉に巴は不思議そうに首を傾げた。
「あの勇輝殿? もしかして、自分の立ち位置をわかってらっしゃら――――」
「あー、もう難しい話は良いでしょう? 私の限られた時間を使ってあげるんですから、さっさと行きますよ! 確か、まだ朝餉もいただいていないのでしょう? もう昼も近づいていますから、まずは腹ごしらえです!」
そう言って時子が乱入してくるや否や、勇輝の手を取って引き摺って行く。だが、勇輝の体はまだあちこち痛みを発している状態。すぐに口から悲鳴が上がった。
「ちょっと待って! 今、体が痛いんだって!」
「痛みなど体を動かしている内に忘れると父も言っていました。口を動かすより、足を動かせです!」
「二人とも助けてー!」
巴は氷のようにピクリとも表情を動かさず、その光景を見つめた後、横で悶え続ける正司を放ったまま駆け足で追いかけた。
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