魔法禁止令Ⅱ
一方その頃、勇輝は巫女長である曾祖母に連れられて城の周りを歩いていた。
「なんで、こんなに、体が、重いんだっ!?」
「そりゃ、勇輝。身体強化を常に使い続けていると加減が分からなくなるからに決まっているだろう。使い方次第で鉄すら歪めるのが容易くなる。そんな力を常時使っていれば、勝手に体が安全のために制限をかけてしまうのは当たり前じゃ」
広間で体内の魔力の巡りを正された後、勇輝は没収されていた指輪を返された。何気なく装着した瞬間、僅かに流れていた体内の魔力すらも感じられなくなった。
いつの間にか指輪には魔力封じの術式が掛けられていたのだ。
「それで体が、こんなにだるいのか。まさか筋力とかも衰えてないよな……」
「感覚の問題だから安心おし。ただ、少なくとも一刻か二刻くらいは完全に止めてやらないと元には戻らないだろうね。少なくとも一ヶ月以上、魔力を流しっぱなしだったんだ。休めてやらないと体がボロボロになるよ」
曰く、「体内に魔力を流し続けるのは何ヶ月もかけて架空神経を鍛え上げた後に行うこと」らしい。その点、勇輝は短期間で負荷をかけすぎた為、かなり危険な状態になっているとのことだった。
「でも、何でそれを知ってるんだ?」
「そんなもの、これを使えば遠くからでもわかるさね」
振り返らずに指で挟んだものを勇輝に見えるようにひらひらと動かす。人の形をした薄い紙。それを見た瞬間に桜の持っていたものを思い出す。
「式神!? でもそれって陰陽師が使う物じゃ?」
「呪術や陰陽術、式神の一つも扱えなくて何が巫女長だってことだよ。正しい知識と必要な技術さえ習得してれば、専門外の術式だって使えるのは当然じゃ」
肉体年齢にして七十近い開きがあるのにもかかわらず、勇輝の歩みよりも素早く歩いていく。その足取りに重たさは一切感じられない。
「それで俺は何をすればいいんだ?」
「逆じゃ。何もするでない」
「はぁ?」
「体を休めろと言ったのが聞こえんかったか? 城下に出て、美味いものでも食って、戻って来て寝るがいい。あぁ、部屋に関しては城門の所にいる門番に聞けばわかるように手配しておいたから、戻ってきたら声をかけるようにの」
そう言うと一度振り返り、残念そうに告げた。
「十数年ぶりの再会だから娘や孫のことについても聞きたいところなんだが、儂にも巫女長という立場があってな。若い娘たちを鍛えなきゃならん。勇輝、あんたを鍛えるのは、またその内やってあげるから、今日くらいは遊んできなさい。そこにもいくらか銭が入れてあるはずだからね」
指で軽く勇輝の右ポケットを指差す。言われた通りに手を突っ込むと、いつの間にか小さな巾着袋が入っていた。揺するとチャリッと音がする。軽く摘まみ上げてみるが、どう少なく見積もってもかなりの量が入っていることがわかる。
「魔力を使わないという意味では休まなきゃいけないけど、肉体的な意味では動かさないといけないのか。言った通り、城下町でもぶらぶらするか……」
勇輝が顔を上げると、既に懐かしき曾祖母の背中は遠くへと移動していた。仕方がないので城下町に出ようと考えるが、ここで一つ問題にぶち当たる。
「(……出口、どこだよ?)」
ここに来るまでに目隠しのまま移動させられたため、どこからどう来たという問い以前に初めて見た景色ばかりで何もわからないというのが正直なところだ。今ここにいるのだって目の前を歩いていた曾祖母に着いて来たに過ぎない。
左右を見回して大手門のような場所を探していると、後ろから声がかかった。
「お困りのようですね。道案内が必要ですか?」
「あぁ、助かり――――」
振り返って、勇輝はぎょっとする。
口調こそ違えど、目の前にいたのは水姫として先程まで対面していた女性だったからだ。
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