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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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内守の巫女Ⅷ

 拍手のような音が響くと勇輝の腕が軽くなる。

 何事かと思う前に自らの腕が自由になっていることに気が付いた。


「今はもう必要なさそうだからな。だが、変な動きをしたら、ここにいる全員が敵に回るから気を付けると良い」


 矢上はそっぽを向いたまま勇輝へと告げる。

 一瞬、戸惑ってしまい感謝の言葉も出せずにいると、周りの巫女たちが騒めき出す。


「やだ、矢上様。涙を流してらっしゃるわよ」

「涙もろいのは相変わらずね。そこが素敵なんだけど」

「本当に優しいお方……」


 巫女たちの中には矢上ファンクラブが存在するようだ。こういった人たちの邪魔をすると大抵、酷い目に遭うことは予想がつく。彼女たちを邪魔しないように、話し掛けようとした口をそっと閉じて前を見た。

 生暖かい目で見渡す曾祖母とイラつきを隠さずに睨む姫。あまり見ていて、落ち着ける状況ではないことは確かである。


「少し、静かにしておくれ」


 その言葉が響くと同時にゾワリ、と全身の毛が逆立った。たった一言で目の前の人物が次元の違う人だと気付く。未来視が使えるだけで姫と呼ばれる人物の前に立てるほどの地位に来れるはずがない。その前に常識を超えるほどの圧倒的な力があるからこそ成し得たことだ。


「さて、話の続きといこう。勇輝。言之葉の娘はわかるね?」


 真剣な声色に全身を強張らせながら勇輝は頷いた。

 言之葉の娘とは桜のことだろう。娘という表現から、彼女の両親とは面識があるらしい。


「あの子は今、ここ日ノ本国の首都・海京を目指して進んできておる。あんた以外の護衛も着いているから安心するといい。恐らく、明後日までには到着するだろう」

「そうか。それは良かった」

「それが良くないんじゃ」


 勇輝は訳が分からなくなった。自分一人だけ攫われてしまい、一人残してきた桜が無事に到着できそうだというのに、それのどこがいけないのだろう。


「それ以上言うには耳が多すぎる。とりあえず、儂らができることを先に済ませておこうか」


 彼女が下がると息を吸い込む音が四方八方から聞こえた。巫女たちが全員目を瞑り、一斉に言葉を紡ぎ出す。


「『掛けまくも(かしこ)伊邪那岐(いざなぎ)の大神――――』」


 途端に、勇輝の足の先から冷たい風が巻き起こる。否、正確には風ではない。服も髪も揺らめいてはおらず、それが魔力のような何かであることだけが理解できた。


「『――――(みそ)(はら)(たま)ひし時に ()()せる祓へ()の大神たち』」


 少しずつ勇輝の頭目掛けて、その感触が昇ってくる。だが、不思議と危機感という物は感じなかった。むしろ、自分の周りがだんだんと澄んだ空気に包まれているようで心地よい。


「『――――諸々の禍事(まがごと)・罪・(けがれ)あらむをば、(はら)(たま)ひ清め給へと (もう)すことを(きこ)()せと、(かしこ)み恐みも白す』」


 言葉が一区切りついた瞬間、勇輝の体に電撃が走った。比喩などではなく、実際に体から空中へと青白い稲光が幾本も手を伸ばす。

 痙攣して前のめりに倒れそうになるのを何とか腕で支えるが、まるで生まれたての小鹿のように震えて今にも崩れ落ちそうになる。それだけではない、体中を火傷したかのような痛みが駆け巡り、息ができなくなった。

 いつだったか、一つ目の巨人のプロンテスとやらに雷霆などというよくわからないものを貰った時以上の痛みだ。悲鳴すら上げられぬ痛みの中で、意識だけは失うまいと思考を巡らせていると、急に痛みが消えてしまった。


「え……あれ?」


 体中にハッカを塗られたかのような爽快感が駆け巡っている。戸惑いながら姿勢を正す勇輝に呆れた顔をする曾祖母。


「まったく……才能を開花させるだけでよかったのに、余分なものをくっつけおって。これで本来の力に支障が出たら大問題じゃ」

「えっと、何がなんだかわからないんだけど」

「簡単な話じゃ。勇輝。今から()()()()()()使()()()()()()


 曾祖母の唐突な禁止令に驚きを隠せず、広間に勇輝の大声が響き渡った。

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