内守の巫女Ⅰ
勇輝は後ろ手に縛られたまま、目隠し状態で移動をさせられた。
最初は馬車に乗せられ、長時間の移動だ。耳に届いてくる音は、たくさんの人や馬車の行き交う音。そして、それは反響音がすることからトンネル状の空間を進んでいることが推測できた。
何度か休憩を挟みながらの旅となり、食事もトイレも不便ではあったが、その状態でも暴力などの問題がなかったことを考えると、犯罪者に対してそれ相応の人権が与えられていることに、少しばかり安心を覚える。
「……あとどれくらいで着くか教えてもらえます?」
「まだまだだ。特にすることもないんだ。寝ていてくれれば我々の苦労も少ない。ゆっくり休んでいろ」
問いには必ず若い男の声が返ってくる。もちろん、見張りは複数いるだろうし御者もいるだろう。そうなると抜け出すのは困難を極める。
ただ、一応周りを警戒することは怠らない。聞こえてくる音を頼りに情報を何とか集めることができた。
御者を含めて、見張りは五人。男が三人に女が二人。無駄に話すことはないが、休憩などで交代をする時に出す声で、何となく予想を付けることができた。
周りは同様に馬車で移動する音が幾つも聞こえてくる。同様の立場の人間を纏めて移動させているようには思えない。冒険者たちか、商人などの物資輸送の方がしっくりくる。
大人しくしているふりをしながら、勇輝は自分を縛っている縄にも触れてみた。太さは人差し指に及ばない程度だが、かなり頑丈で、手首の感触からしても相当堅い。
指を曲げてガンドで抉り飛ばすということも考えなくはなかったが、どれ程の威力が必要なのかわからない上に自分に当ててしまう可能性すらあるので実行できるはずもない。
結局のところ、一日かけて馬車に揺られた勇輝は、体の節々に痛みを感じながら馬車を降ろされることになる。
「目隠ししているだろうからわからないと思うが、今は夜だ。明日には沙汰が下る。それまで大人しくしていろ」
「沙汰ってことは俺への罰は決まっていると? 反論する余地もなく?」
「黙って歩け。我々も詳しいことは聞かされていないから聞くだけ無駄だ」
目隠しを外されることなく、勇輝は左右から男たちに腕を掴まれて歩かされる。小さな石に躓いたり、木の枠の様な物に足の指をぶつけたりしながら四苦八苦していると、やがて階段を下っていくことになった。
ひんやりとした空気とかびの臭いが下から吹き上がってくるのを感じて、思わずゾワッと鳥肌が立つ。目に見えないだけで、巨大な生物の口の中に進んでいる気分だ。
「ここだ。頭を下げて、潜れ」
頭を軽く押され、それに従って屈む。すると、屈み方が足りなかったのか更に上から力がかかった。
「わかったから、もう少しゆっくりやってくれ。こっちは目が見えないんだぞ」
「うるさい。他にも人がいるんだ。静かにしろ」
面倒だとばかりに頭と腰当たりを掴まれると、そのまま前の方へと引っ張られた。いきなりのことに対応できず、足を引きずられる形で目的の場所へと辿り着くことになったようだ。
「お前には特別に昼夜問わず見張りが付く。監視の役目もあるが、目の見えない状態で困った時の世話も兼ねている。何かあったら呼ぶと良い」
「ご丁寧にどうも。できればもっと優しい人を監視に付けてくれることを祈ってるよ」
「……因みに見張りは二人体制だ。呼んだ隙に何かしようと思っても、もう一人が対応するから無駄な足掻きは辞めておけ」
そう言うと足音が遠ざかり、何かが閉じる音。次いで錆びた金属音が響き渡った。
日ノ本国という日本に似た国だと考えると牢屋というのも、木枠でできた格子を想像してしまう。足を動かして床の感触を確かめるが、当然のことながら敷布団などという物はなく、どこまで言っても床の感触が返ってきた。
手が自由に動くのならば仰向けに寝ることもできるのだが、このまま横で寝るのも肩や首が痛くて仕方がない。勇輝は芋虫のように張って壁際まで行くと、体を起こして背を預けた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




