指名手配Ⅵ
新しい船が到着したようで、入国審査の窓口には既にたくさんの人が並んでいた。出国審査も人が多い為、桜は戸惑いながら空いている窓口を探していると、背の高いアンガスが真っ先にそれを見つけ出した。
「あそこが空いているな。並んでいる人が少ないどころか、一人もいないみたいだ」
アンガスの言う通りに進むと、そこには特別審査窓口と書かれていた。色々な場合が考えられるが、簡潔に述べるならばパスポートを見せただけで審査終了となる窓口のことだ。先程、隆三が手続きをしていたのもこの窓口である。
「あの……すいません」
「はい、なんでしょうか?」
黒髪の受付嬢が笑顔で出迎える。
しかし、桜の次の言葉で表情が強張った。
「私の友人の勇輝という人なんですが、先程、こちらで捕まったのではないかと後ろの方々にお聞きしまして」
「勇輝、様ですね? 少しお待ちください」
受付嬢は手元の本を開くと、そのページに『検索 勇輝』と鉛筆で達筆に書き込んだ。彼女が使っている本は、大元の情報を管理する書庫に繋がっていることを桜は知っている。書き込むことでそこから必要な情報を引き出したり、登録したりすることが可能な魔道具で、目の前で勇輝の情報が本に転写されているはずだ。
「お連れの方は内守勇輝様でよろしいですね?」
「はい、そうです」
「――――申し訳ありませんが、その方についてお教えできることはございません」
受付嬢は気の毒そうに桜とその後ろの三人を見る。
「じゃあ、今どこにいるんだ? この国に入国出来てないのなら、船で送り戻されるか。或いは牢屋にぶち込まれるかだろう?」
「申し訳ありません。それについても、お答えできかねます」
法律を全て網羅しているわけではないが、桜は受付嬢の対応がいかに異常なのかを理解していた。普通は入国審査に落ちた者が行方不明になるなんてことはあり得ない。留学する際にトラブルに巻き込まれても大丈夫なように、両親に何度も確認をしたからこそわかることだ。
入国審査における失敗時のルートは二つ。一つはアドルフが聞いた通り強制送還されること。もう一つは牢屋に入れられること。どちらか一つだ。
「俺はあんたらが少年を捕まえて連れて行くのを見たんだ。それでも知らないふりをするって言うのか?」
「お答えできかねます」
気の弱そうな雰囲気をしていた受付嬢だが、それでも譲れないところの線引きはきっちりしている。その意思の強さにアドルフも埒が明かないと思ったのだろう。振り向いた桜に首を横に振った。
「……何かありましたか?」
その時、受付嬢の後ろの扉から男が出てきた。その顔を見てアンガスが声を挙げた
「こいつだ。坊主の受付を担当していたのは」
「兄さん、落ち着いて。それに人に指を差したら失礼でしょう」
冷静な表情に見えながらも額に血管を浮かべるアンガスに男は視線を向ける。その後、受付嬢の手元を見て、目が細くなった。しばらく、そのまま本を見つめた後に軽くハンドサインで受付嬢と変わるように促す。椅子に腰かけた男は本を開くこともなく、まっすぐに四人を見据えた。
「さて、我々としましては法に基づいた対応をしているだけなので、これ以上問われてもお答えできないものには、お答えできないと言うしかございません。お引き取り願えませんか?」
「一応、こっちも坊主には海で助けられた身なんでね。命の恩人を捨て置いたとなったら寝覚めが悪い」
「それは困りました。その場合は、あなた方も捕まってしまうことになります」
ため息交じりに呟いたそれは紛れもなく脅しだった。これ以上騒ぎを起こすのなら逮捕する、と。
「あなた方も、ということは坊主はやっぱり捕まっている、ってことだな。わかったわかった。ならば、俺たち冒険者がやることは一つだ」
アドルフは両手を受付に置いて、ニヤリと笑顔で男の目の前まで顔を近付けた。
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