指名手配Ⅲ
不思議に思いながらもユーキは受付へ進むと、目の前に紙と鉛筆が置かれた。
「こちらへの記入とギルドカードの提出をお願いいたします」
ファンメル王国では水晶による自動筆記や羽ペンでの処理だったが、日ノ本の国では筆ではなく鉛筆が導入されていることに少しばかり驚きを覚える。材料だけで言うのならば黒炭と硫黄があれば作れるため、それを豊富に産出する場所があるのかもしれない。例を挙げるとするならば、やはり火山が挙げられるだろう。
日本も火山のおかげで露天掘りで採掘し、朝廷にも献上していた記録が残るほどだ。つまり、和の国も国土のどこかに火山がある可能性が高い。
「(ここが日本と同じ大陸プレートと海洋プレートの間にあるのなら、活火山があっても不思議じゃないか)」
そう思いながらユーキは目の前の紙に必要事項を書いていく。
名前、性別、年齢といったプロフィールはもちろん。入国する理由や持ち込む武器などの欄もあった。ある程度書き終えたところで一通り上から目を通す。特に問題ないと安心して、紙とギルドカードを渡したところで、おかしいことに気付いた。
先程、サクラの後ろで緊張していたのは、口頭での質問に何を聞かれるかわからなかったからだ。その時、サクラはギルドのカードを提出しただけで、何かを書いていたようには見えない。
「内守勇輝――――様ですね?」
「あ、はい。もしかして、書き漏らしがありましたか?」
「いえ、大丈夫です。いくつか質問があるので、お答えいただいても良いですか?」
口頭での質問が始まろうとしたので、きっとサクラは提出書類を元々用意してあったのだろうと、ユーキは勝手に納得する。もしかしたら、出国時に用意して戻ってくるときの為に書いてあったのかもしれない。
「出身は日ノ本国とされていますが、ギルドカードには不明と登録されています。心当たりはありますか?」
「はい、お恥ずかしい話ですが、ファンメル王国の道中で行き倒れそうになった時から前の記憶が吹っ飛んでいまして。自分がどこから来たのかも思い出せないんです」
「記憶喪失ですか。困りましたね。この国の出身であるのならば、出国記録があるはずなのですが、ここ数年を遡っても、あなたのお名前は見当たりませんね」
想定していたことだったが、あまりにも早く目の前の相手から告げられた言葉にユーキは動揺した。まだ記入した紙とギルドカードを渡しただけだ。目の前の人物は膨大な量のデータを検索できるコンピュータどころか、一冊の本を開いているだけで、捲りさえもしていない。
しかし、チラリと見た本には何も手を加えていないのに、達筆な文字が次から次へと浮かび上がって来ていた。
「それに戸籍の方も生年に合わせて前後五年で探しましたが、あなたの名前が届け出された様子はありませんね。それに――――」
流れがだんだん悪くなってきたように思える。このまま、自分だけ王国へとんぼ返りさせられる可能性すら見えてきた。その中で受付の男が言い放った言葉にユーキは冷や汗がどっと溢れ出す。
「――――よりによって、『内守』ですか」
最初にサクラと出会った時にユーキは貴族だと勘違いされた。その理由が苗字持ちであること。貴族の中に内守がいないだけなら、貴族に憧れて親が勝手につけたのかもしれないなどと、逃げ切ることは可能かもしれない。
しかし、目の前の受付は内守という名前に聞き覚えがある様子。そうなると、本物の貴族・内守家が黙っていないだろう。
ごくり、と大きな音が喉で響く。あまりの緊張に周りの人間全員に聞こえているのではないかと思ってしまう程に、ユーキは冷静さを欠いていた。
そんなユーキの心情を知ってか知らずか。受付の男はギルドカードをカウンターに置いてユーキへと差し出す。
「どうぞ。お受け取りください」
「あ、どうも――――」
何気なく差し出されたカードに右手を伸ばした瞬間、ユーキの腕にいくつもの布が巻き付いた。
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