指名手配Ⅰ
風は吹けども波は凪ぎ、雲一つない快晴の空の下、ユーキたちは洞津へと降り立った。
地面に足を着いても、まるでゆらゆらと島全体が揺れている感覚に戸惑いながら足を進める。
「検問所でギルドのカードを出せば、かなり早く審査が終わるの。そうじゃないとかなり時間がかかるから、何かしらのギルドに所属する人が多いけど。一番手っ取り早いのが冒険者ギルドなのは、どこの国も変わらないみたい」
「基本的に冒険者ギルドって何でも屋なところがあるからなぁ」
戦闘に特化したわけでもなく、材料の仕入れに特化するのでもない。まさに各ギルドが必要としていて手の届かない所を担当する何でも屋というのが、意外にも的を射ているのかもしれない。
懐からギルドカードを出そうとするユーキの肩に、後ろから大きな手が置かれた。
「まだ、ここでは出さない方がいいぞ。ああいう奴らも息を潜めて狙ってやがるからな」
隆三が顎でしゃくって別の船から降りてくる男たちを示す。
縄で手と腰を拘束された五名の男たちが見るも無残な姿で屈強な船員たちに引きずられていく。顔は腫れ、本当に人の顔なのかと疑いたくなる容貌に、所々から出血が見られる。耳が無かったり、指が無かったりするどころか腕が折れていてもお構いなしだ。
「あれは女をやったな。金目の物を盗んだくらいでは、ああはなるまい。お前たちには縁の無いことだと思うが、船ではああやって私刑が行われることがよくあるのだ」
隆三の言葉にユーキは胸糞が悪くなるのと同時に、金を出してでも安全を取って良かったと安堵する気持ちが沸き上がった。
男たちは呻き声を上げながら裃を着た、いかにも時代劇に出てきそうな恰好をしている男たちに引き渡される。
「(陰陽師と聞いて平安時代かと思ったら服装は室町時代以降だったり……一体、どこの時代基準なんだ?)」
ユーキは日ノ本国の時代水準が混在していることに気付いて、頭の上に疑問符が幾つも浮かび上がってしまう。まだ建物や食べ物といった様々な判断材料があるので、それを見てからにしようと頭の隅の方へと疑問は追いやっておく。
いま大切なのは、ほぼ間違いなく日ノ本国は日本と同一の文化を継承する国であることだろう。
「……でも、ギルド発行のカードは偽造はできないので、盗まれても使えないんじゃないんですか?」
「偽造はしたら罪になるができないわけじゃない。場所によっては見せるだけで、精査せずに身分証として通してしまう所もあるってことだ。世の中にはそういうものでしか生計を立てることができない奴も一定数いることを覚えておくといい。いつの時代、どこの国でも、落ちぶれてしまう奴はいる」
悪気はなかったのだろうが、隆三の言葉がユーキにはグサリと突き刺さった。
それはここに来る前のユーキが歩んできた人生に対する致命的な一撃で、一瞬の内に思考の海へと引きずり込まれていく。
そんなことなど知らない隆三は目の前の建物を指差して説明を始めた。
「あそこで検問と審査を終えたら、外に出て右の通りに食べ物を売ってる店が山ほど並んでるのだが、行ったことはあるか? 我が国を出る前は大層賑わっていたが、この街を出る前に一度行ってみると良い。特に手前から五件目くらいにあった団子と羊羹は格別でな。船に乗る前にたんまりと買い込んだのを今でも覚えておるわ」
「もしかして、『姫菓』ですか? 私もそこに行ったことがあります」
サクラは目を輝かせると隆三の話に食いついた。やはり甘いものは女子にとって魅惑的なのだろう。ここ数日の中で一番無邪気そうな顔を見せた。
焦点の合わない目で考え事をしていたユーキだったが、サクラの声に反応して思わずそちらを向く。視線が一瞬交錯した後、サクラの顔が赤くなり、先程までの勢いがどこかに消えてしまった。
「はっ! 照れるな、照れるな。若い内は美味いもの食って、体動かしてなんぼだというのに」
豪快に笑うと隆三は二人の背を押して前へと進ませる。この時、隆三の行動に気を取られたせいか。いつもなら見逃すはずのない視線の気配にユーキは気付かなかった。
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