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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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帰国Ⅷ

 次に目を開けた時には、満天の星が広がっていた。

 ボーっとする頭が時間をかけて、自分の置かれた状況を把握しようとしている。まず最初に目がサクラの顔を捉えた。次いで触覚が後頭部に柔らかいもので支えられていると告げている。


「ユーキさん。おはよう。あ、でも、まだ朝日が昇るまでには十分時間があるから、おはようはまだ早いかな?」

「……俺が気を失ってから、どれくらい経った?」

「わからないけど、甲板に人がまばらになるくらいには時間が経ってるよ」


 長い時間甲板で膝枕をさせていたことだけは理解できた。体を起こそうとすると、サクラはすぐにそれを手で抑えてくる。


「まだ目が覚めたばかりなんだから、じっとしてて。勇輝さんは、いつも無理するんだから」

「面目ない」


 戸惑いながら体の位置を戻すと、自分たちの持ち物ではない毛布が掛けられていることに気付いた。魔法がかけられたコートであまり寒くは感じないが、毛布があるのとないのとでは、やはりある方が心地よい。

 夜の潮風が頬を撫でていくと共に、脳裏に最後に見た巨大な生き物が浮かんできた。


「サクラ……クラーケンを倒した奴の姿は見た?」

「うん、私も見たよ」

「あれは何だったんだ?」


 少なくともクジラの類ではない。体長は少なく見積もっても数百メートルはあったはずだ。


「あれが龍神様だったりして……?」

「そんな船一つの危機を救う為にホイホイ現れる気軽な神様がいたら驚きだよ。まぁ、本当だったら感謝して、社にお参りくらいはしないといけないな」


 相手が何者かはわからないが、結果的に助けられたのは事実だ。その点においては感謝してもし足りない。

 数時間前までは気持ち悪かった揺れも、今は母親の腕に抱かれているような気分になってくる。いけないとは思いつつも、瞼を再び閉じ始めた。


 ――――コツコツコツ。


 そんな中で耳に誰かが近付いて来る足音が聞こえてきた。目線だけ動かすと魔弓を使っていたと思われる巨体の男が顔を出すところだった。


「……二人で話しているところ悪いが、邪魔するぞ」


 先程は慌てていて顔もよく見ていなかったが、ユーキやサクラと同じ、日本人の顔立ちをしていた。つまり、和の国の出身であることが推察できる。


「先ほどのクラーケン退治は見事だった。我々のような目の良い弓使いよりも、素早く敵を見つける洞察力。最初は異国の呪術師にも面白い奴がいると思っていたのだが、まさか同郷だとは思わなかった」


 丸太を思わせる二の腕を組んで、仁王立ちしてユーキを見下ろす。その姿は熊が二足で立ち上がっているようにも見えた。

 後頭部越しにある太ももや、肩に置かれた手からサクラが若干震えているのが伝わってくる。いくら、魔法が使えると言っても女の子。ましてやフェイに船では何が起こるかわからないとまで脅されているのだから仕方のない話だろう。ユーキはそっと片手をサクラの手に添えると男に言葉を返す。


「あなたの方こそ、スゴイ威力の矢を放ってたじゃないですか。あれほどの物を今まで見たことがないですよ」

「あれは道具のおかげ、自身の腕はまだまだよ」

「道具を使うのも力量の内でしょう?」


 数秒間、二人で見つめあうと男はドカッとその場に座り笑みを見せる。


「我が名は隆三。本島北区の出身。ファンメル王国で武者修行し、久方振りに国に帰る身だ。そちらは名のある家の出とお見受けするが?」

「勇輝といいます。俺は記憶喪失で行き倒れになりそうだったのを彼女に助けられたので、その護衛として一緒に海を渡っているところです」

「ほう、それはまた難儀な……」


 ぼさぼさの眉毛を動かして、サクラの方に顔を向ける。


「だがそこに至るまでに波乱に満ちた日々があったに違いない。そうでなければ、あれほどの呪術は放てぬし、この船に乗るほどの金も稼げなかったであろう。……良い拾いものをしたな」

「ユーキさんは物ではありませんし、そういう風には見ていません」


 サクラの反論にキョトンとした顔を見せると、隆三はガハハと大きく笑い声を上げた。


「お前たちは面白いな。あっちに着いたら、洞津の良い店を紹介してやろう。もし、次に記憶喪失になっても、食べたら思い出せるほどの店があるからな」


 急に堅苦しい口調がなくなり、柔らかい微笑を浮かべると隆三はおもむろに立ち上がった。そのまま彼は何も言わずに去っていく。

 やがて、その姿が見えなくなった時、サクラがくしゃみをした。


「俺たちも中に戻ろうか」

「うん、そうだね」


 それから洞津までの残りの船旅は、クラーケンに襲われたことが嘘のように平和に時が過ぎて行った。

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