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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第10巻 紺碧の海原を越えて

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帰国Ⅲ

 船が出向してから、まだ三時間。甲板で景色を見てはしゃいでいた時の自分を殴りたくなってくる。

 まだ到着までは二日ほどかかる。こんなところで躓いていては何が護衛か。ユーキは自分を奮い立たせ、フェイに聞いておいた切り札を早速、使うことにした。


「(――――身体強化!)」


 かなり慣れた様子で体中に魔力を回す。魔力による身体強化は膂力を上げるだけでなく、毒物の代謝や怪我の回復にも効果がある。気持ち悪さが増加されるなどというギャグ的な展開はなく、ゆっくりとユーキは起き上がった。


「もう大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないけど、とりあえず身体強化で数時間は活動できそうだ。その間にこの感覚に慣れておかないと」


 港を出たのが朝の九時なので、今はちょうど正午。あと八時間ほど乗り切れば、後は寝てしまうという手が使えるのだ。それまでに何とかしのぎたいところではあるが、ユーキの感覚的には動いて余分に魔力を消費したらアウト。つまり普段と同じ調子で生活していれば、大体三時くらいには限界を迎えそうな気がしていた。


「それなら、食堂に行く? それとも、持って来た保存食でも食べる?」

「さっきの水だけにしておくよ。サクラは食べなくていいのか?」

「うん。私も何度か船に乗ったことはあるけど、船酔いに強いわけじゃないから、持って来た食べ物を少しだけ摘まんで終わりにしとこうと思って」


 そう言いながら部屋の隅に置いてある荷物を見る。必要最小限の物しか持ってきていないので、そこまで嵩張ってはいない。服が数着と食料、後は本が数冊だ。もし、汚れを落とす魔法が無かったら、服の数だけでとてつもない量になっていただろう。


「しかし、あれだな。二日間も海の上となるとやることが無いから暇になりそうだな」

「私とのおしゃべりは退屈だとでも?」

「からかわないでくれよ。そういう意味じゃないって分かってるだろ?」


 顔をわざとらしく膨らませたサクラだが、すぐに噴き出してしまう。


「やれることと言えば景色を見るか、ご飯を食べるか。後は本を読んだり、ユーキさんみたいに魔力の使い方を練習したり。私も負けてられないから練習しよっかな?」


 窓の外では雲の合間から光が指し、波がその光を乱反射して煌めいている。時々、並みの合間から魚が跳びはねるのが見え、ほのぼのとした空気になる――――はずだった。


「サクラ、そういえば一つ聞き忘れてたことがあったんだけど、聞いていいかな?」

「いいよ。何が聞きたいの?」

「海にも、魔物っていたりする?」


 二人の間に嫌な沈黙が流れる。

 魔物がいるとするならば、このような木造船は一撃で破壊するような奴がいるに違いない。ユーキはそう気づいてしまった。以前、サクラが話していた言葉が脳裏に蘇る。


 ――――飛竜飛び交う『緑の峡谷』、()()()()()()()()()』、未知の命(バケモノ)育む『未開大森林』。


 問題となるのは二番目に聞いた嵐の大洋だ。既にドラゴンに出会っているのだから、同様の生命体がいても驚くことではない。


「……いま私たちが向かっているところはね。嵐の大洋、って呼ばれている所なんだよ?」


 サクラがマリーの様な笑みを浮かべた瞬間、ユーキは心臓がきゅっと縮んだ気がした。泳げるからこそ、水の恐ろしさがわかる。そして、何より海の底には何がいるかわからないという恐怖がユーキを縛り付けていた。

 船に乗る前にユーキは一つ、心に決めていたことがある。絶対に海の中を魔眼で覗きこまないことだ。見た先にゲームなどでよく出るリヴァイアサンのような超巨大生物がいたとわかったら、ガンドで自分の頭を撃ち抜きたくなるほどの恐怖に襲われるだろう。

 顔面を蒼白にしたユーキの横で、サクラは面白そうに笑いながらベッドを片手で叩く。


「ユーキさん、って強いのに怖がりなんだね」

「当たり前だ。恐怖って言うのは一度知ってしまったらなかなか消えないんだ。笑っていられるのも今の内だぞ!」


 ユーキはサクラに若干怒りを抱きながら抗議する。そんなユーキをサクラはまるで幼児でも見ているような優しい目で見返してくるのだった。

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