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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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手繰った糸の先Ⅶ

「まずは王都にその情報を送るべきだな」

「はい。自分もフランを助けた後に、誰にもその話をしていないことを思い出しましたので、話題に挙げさせていただきました」

「仕方のないことだ。何せ彼女の存在のことを考えれば、気が動転するのも無理はないからな」


 その視線は座ったフランに向けられていた。

 公爵が唸り声を上げそうなほどに眉間に皺を寄せていると、オーウェンが口を開く。


「父上、一つ提案が」

「何だ、言ってみなさい」

「流石に王女殿下の転移魔法について話すのは危険ですが、魔法学園で一般的に語られている転移魔法のことであるならば、問題は少ないかと」


 ユーキとしては転移魔法のことが知れれば何でもいい。何をしていいかわからずに過ごしていた中で、唯一はっきりとした手がかりだった。

 自分の知っている場所に時間と距離を無視して移動できるのであるならば、ユーキがいた世界に戻ることは不可能ではないはずだ。

 期待に胸を膨らませるユーキに公爵は仕方ないとばかりに語り始める。


「実を言うと、だ。アメリア姫の転移魔法については、本人ですらどのような形で発動しているのかわかっていない」

「そんなことって……」


 魔法学園で習う汎用魔法と違い、魔法の中には魔法陣や触媒、時には天候や星の位置を利用して発動させるものが存在する。どれにも共通するのは魔力と言霊としての力だけではなく、理論に基づいた細かく複雑な過程を経なければいけないことだ。

 言い換えるならば、適当に杖と魔力と詠唱だけですごい魔法を使うことができるというのは、地道に魔法理論を研鑽した者か。或いは天性の感覚で魔法を発動してしまう者かの二つに一つだ。


「魔法学園の教授たちが推論として出している中で、確定している発動条件が一つだけ存在する」


 一つでも構わない。ユーキの視点からしかわかり得ない何かを、発動条件から推測できる可能性も零ではない。

 あまりの緊張で公爵の開かれていく口がスローモーションのように見える。鼓動がやけに大きくなり、食べたばかりの食事が胃の中で暴れているようにさえ感じた。


「――――観測者を無くすこと」


 その言葉に転移魔法の経験がある全員が、その条件の内容を理解しようとしていた。


「オーウェン、説明してやれ」

「はい。転移魔法で必要とされているのは、移動させる対象が周囲から見えない状態にさせることが必須。例えば、我々が聖女の護衛依頼で出発するときには濃い霧が発生している。大人数で、近くの人間も視認できていたと思うが、護衛部隊以外からはアメリア殿下でさえ視認できていない」


 その言葉にユーキはハッとなる。

 月の八咫烏であるクロウも撤退するときに水を竜巻のようにして自身の姿を眩ませていたからだ。特にあの時は気泡をふんだんに含んだ水で真っ白に染まり、屈折した姿すら認識できなかった。


「一部では誰にも観測できない状況を作ることにより、一時的に世界から消失した空間に置き換えているのではないか、とも言われているかな。尤も、その場合はどうやって出てくるのかというのが問題だけど、それこそが発動者が訪れたことのある場所にのみ転移できることに関係する、とレオ教授が最近の学会発表で話していたはずだ」

「あのおちゃらけ教授。まーた、論文や学会発表やってんのか。いつか倒れるんじゃないか?」


 マリーがぼそりと呟くと、クレアも小さく頷いた。どうやら、マリーが呆れるくらいに研究者として精力的に活動していたようだ。


「今の内容はあくまで国内でも一部の信用が置ける人物にのみ伝えられている。学会発表に呼ばれたのも一部の教授や貴族だけだ。ユーキ君を始め、ここにいるみんなには言いふらさないで欲しいとだけ忠告しておくよ。尤も、多くの国の上層部は、その情報を掴んでいそうだけどね」


 公爵からも無言の圧力を受けながらユーキは頷いた。大きな手掛かりを掴むことができたのは大きい。なぜならユーキもまた、こちらの世界に来る時は謎の空間に迷い込んでいた。つまり、オーウェンの説明した「誰からも観測されない場所にいる」という転移魔法の発動条件を満たす場所にいたことになる。

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