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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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手繰った糸の先Ⅴ

 フランは助けを求めるように視線を左右に動かすが、ここで割って入れる者はいない。

 尤も、公爵の言動によっては動く可能性も少なくはなかった。クレアは関係ないという顔をしながら、隣のマリーの動きを注意深く見守っているし、ユーキやフェイは睨み返すかのように目を細めていた。

 オーウェンですらも苦虫を噛みつぶしたような表情を隠さない。


「わ、私は別に何もいらないです。そもそも、いま生きているのだって奇跡みたいなものですから。これ以上を望んだら罰が当たってしまいそうで――――」

「嘘だな」


 即座に公爵は否定した。

 悪戯が見つかった子供のようにフランの肩が跳ねる。それを見ても顔色一つ変えずに話を続ける。


「これ以上を望んだら罰が当たる、などと話をしている時点でおかしい。一体、何に怯えている?」


 それがあなただと言えるのならば、彼女はどんなに楽だっただろうか。ただでさえ白いフランの肌が、更に白くなったかと思う程に蒼白になっている。


「人間ならば欲望の一つや二つはあるはずだ。――――それとも人間ではなく化け物だとでも?」

「この――――!?」


 マリーが杖を掴みかけるが、その手をクレアが掴んで抑える。小さく首を横に振った。ユーキも構えこそしなかったが、静かに身体強化のために魔力を奔らせる。

 もし、公爵が吸血鬼であるという理由で攻撃を加えるのであるならば、それは彼女を貴族として認めている国王に対する反逆ともとれる。攻撃する理由としては十分だ。

 当然ながら殺気じみた気配に気付かないほど公爵も落ちぶれていない。むしろ、分かった上で涼し気な顔でフランだけを見ている。


「私は――――」

「……何だ?」


 フランは体を震わせながらもゆっくりと立ち上がった。その体は魔力を一切放っていないのに、ユーキの魔眼が勝手に開いてしまう程の赤い光を放っていた。


「私は確かに体は吸血鬼かもしれないですけど、心は人間です! 叩かれれば痛いし、嫌なことを言われれば苦しくなります。友達と一緒にいれば笑うし、甘い物を食べれば幸せになります。そんな当たり前の生活がしたいだけです。――――だから、私のことなんて放っておいてください!」


 食堂の中が静寂に包まれる。

 まさか公爵相手に啖呵を切るとは思っていなかったのか。クレア以外は目を丸くしてフランの姿を見つめていた。

 肩で息をするフランに、公爵はその息が整うまで待って問いかける。


「つまり、『人として生きるための保証が欲しい』というわけだな?」

「そうです。国王陛下が爵位を与えてくださったとしても、多くの貴族の方々は私を疎ましく思うでしょう。父の後を継ぐのが私の夢ですが、どんなに努力をしたところで潰されるだけです」


 立派な商人になる。それが罪を犯してでも自分を救おうとした父と化け物に成り果てた伯父への罪滅ぼしなのだと。

 以前にユーキと商人ギルドに登録しに行ったのも、自分一人だったら追い返されると不安だったから。誰もが当たり前のように踏み出す一歩が、フランにとってはあまりにも遠い。

 今まで誰にも言うことのできなかった気持ちを初めてぶちまけた。


「そうか。ならば()()()()()()()()()()()()になろう。それが報酬で構わないな?」

「……えっ?」






 一体、目の前の公爵は何を言っているのだろうか。フランだけでなく、誰もが公爵の言葉に耳を疑った。


「最初に何の功績もない君に爵位が与えられた時は時期尚早だと思ったが、今の君になら問題はないだろう。これで我が家が滅びぬ限りは、安心して過ごすことができるな」


 実に良い案だろう、と誇らしげな顔をする横でオーウェンは開いた口が塞がらないでいた。

 公に言う者はいないが、貴族たちの間ではフランを容認するか排斥するかの二大派閥が存在し、多くの貴族は排斥派だ。そしてオーウェンは少なくとも、自分の父は排斥派だと思っていた。それだけに今回の判断は衝撃過ぎて思考が止まってしまうのは仕方のないことだった。

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