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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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布石Ⅲ

 ふわりと何かに持ち上げられるような体が浮く感覚に戸惑いながらも、女郎蜘蛛は朦朧とする意識の中で歯を食いしばっているように思えた。


 ――――なぜ自分がここにいるのだろうか。


 自分が覚えていることを少しずつ思い出していく。何がどうなって、自分が女郎蜘蛛になったかはもう覚えていない。ただ耳の奥にこびり付いているのは山神様への生贄だとか、村の為だとか騒ぐ人間どもの怒声と泣き叫ぶ誰かの声。

 はっきりと覚えている古い記憶は山の奥深くに潜み、地面近くから木の上近くまでに構えた大きな巣にかかった獣を食らい、巣を張り直して、次の獲物が引っかかるのを待つ。何気ない日常だった。

 なぜか山によっては神の如き存在もいるという話を覚えていたが、少なくとも、自分が暮らしていた場所では良くも悪くも、只の獣しか出ず、平和な場所だったと記憶している。いや、獣にしてはやたらガタイの大きいものが多かったかもしれない。

 ここに来る切っ掛けは些細なことだった。いつも囀る鳥の声がやけにその日だけは異様に静かで、心が酷く穏やかだったことは確かだ。食事はデカい鳥か、必要ならばそこらを闊歩する四足獣で足りてしまう。その為、腹の足しにもならぬ小鳥を巣から引きはがし、空に解き放ったところで、後ろから何者かに殴られて気絶してしまった。

 思い出し始めれば、本を流し読みするかのようにスラスラと記憶が蘇ってくる。

 真っ暗な倉庫の中で雁字搦めに縛られ、鉄の檻に入れられていたこと。頭髪の色が鮮やかな異国の言葉を話す人間がジロジロと何人も見に来たこと。その内の一人が自分を引き取ったこと。封印の術式がかかった縄を解いた瞬間に子蜘蛛を解き放って殺し、ひたすら逃げたこと。

 そこまで振り返って、女郎蜘蛛は自分の怒りの根源が間違っていたことに気付く。





「子供の為じゃない……私を、こんなところに連れて来た(棄てた)、お前たち人間が――――許せ――ない!」


 首が離れてしまえば動かないはずの体が痙攣を起こし、残っていた脚に力が籠る。


「そうだとしても、お前を生かしてはおけない!」


 ユーキが半身になって避けると魔眼が見せた光を追い、蜘蛛の糸が噴き出て城壁に穴を開けた。転落防止部分とはいえ厚さは二十センチを超えている。それが貫通してしまっているのだから、今の糸が人体に当たれば悲惨なことになるだろう。


「――――って、ちょっと待て、それは反則だろ!?」


 血の気が引くユーキにお構いなしに、首を失った胴体は黒い靄の指示通りに糸という名の槍を連射する。避けることはできるが、厄介なのはこれが蜘蛛の糸であるという点だ。勢いがなくなった後でも触れれば絡めとられ、身動きが取れなくなってしまう。剣で切り裂きながらも避ける場所を確保しつつ、ユーキはガンドの再装填が完了するのを待つ。

 何人かの騎士が異変に気付き、女郎蜘蛛の体へと槍を突き立てるが攻撃は止む様子を見せない。水魔法を突き刺したまま放ち、それが体を貫通しようとも怯むどころか攻撃は激しくなる。

 ユーキも剣を使い慣れているわけではない。その内、乱射した内の一つが避けきれなかった剣を吹き飛ばしていく。その衝撃に思わず手首を抑えると、黒い靄が笑みを浮かべていた。


「さっきの言葉、そのまま返すわ。これで、終わり!」


 ユーキめがけて散弾銃のように糸が放たれる。先程の一点集中型より威力は劣るだろうが、それでも一発一発が拳銃に近い威力はあると思われる。身体強化をしているとはいえ、まともに喰らえばただでは済まない。


「ユーキ様。お下がりください」


 そう声が響くと、無数のナイフが雪崩のように斜め上から降り注いできた。

 ユーキの逃げ道を塞いでいた糸諸共、飛び散った糸を床へと縫い付ける。何発かがユーキの腕や頬を掠めて行くが、致命傷は免れたようだ。

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