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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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布石Ⅰ

 金属が城壁の床や壁に叩きつけられる音と共に、子蜘蛛たちの足が吹き飛び、命が散っていく。

 城壁の中へと逃げ込めばソフィの水の魔法に射抜かれ、外に逃れようとすれば結界に包み込まれ瞬時に潰される。その場で戦おうにも多勢に無勢。それでも多くの子蜘蛛たちが選択したのは、結界の外へ逃れることであった。

 魔物とはいえ女郎蜘蛛という知性をもったものから生まれた存在。一気に結界へと突入すれば、その分だけ結界の処理が増えて、逃げられる可能性があると踏んでいたのだろう。

 加えて、何匹かの個体は城壁沿いに滑り落ち、半ばを過ぎたあたりで侵入時と同じように糸を放つ。地面に辿り着いたそれを一気に引っ張って加速する。

 先程よりも心理的に余裕があるためか、クレアはその光景を見て唸り声を上げる。


「あの蜘蛛の糸。ただ巻き取ったり、引っ張ったりするだけじゃなく、魔力を流すことで伸び縮みさせたり、粘着性の有無を切り替えたりできるみたいだね。もし森や林、山の中で襲われてたら、ああいう風に逃げ出してたのは、あたしたちの方だったのかも……」

「そんなことより姉さんも手を動かせって、こいつら一匹も逃しちゃいけないんだろ!? もう何匹か外に出てるぞ!」

「残念。矢が切れちゃったから、これぐらいしかやることがないんだぞ、っと!」


 マリーの声に辟易しながら、クレアは足元にあった剣を思いきりマリーに向かって投げつける。顔の横を通り抜けていくコースではあったが、驚いたマリーは頭を抱えて中腰になった。


「な、なにす――――」

「あたしや子蜘蛛の行方の心配より、まずは自分の命を心配したら? いくら勝ち戦とはいえ、死ぬ時は死ぬんだよ」


 恐る恐るマリーは振り返ると、液体を吹き出しながら痙攣をする子蜘蛛が地面へと仰向けに倒れ伏すところだった。


「あんたにはあんたにしかできないことがある。しかも、この場においては最も効果のあるやつがね。そういう意味では、サクラの方が行動は早いみたいだ」


 本来ならば土の魔法を得意とするサクラが、火球の詠唱を終えて放ち始める。外骨格を貫くよりも燃やした方が早いと判断したのは、ある意味で最適解であった。


「そうとくれば、こっちも負けてらんないな。火魔法の威力と範囲ならあたしの得意分野だぜ」


 自分の手元に戻ってきた、愛用の杖を前方に振りかざし、マリーは詠唱を始めるかに見えた。だが唐突に横を向いて、ユーキの姿を見つけると大声で叫ぶ。


「ユーキ! 一番遠くにいる奴に火の魔法をぶち当ててくれ!」

「りょ、了解!」


 即座に近くの子蜘蛛たちから離れ、詠唱の後に火魔法を付加したガンドを放つ。魔眼では既に最も離れている子蜘蛛で百メートルほど。緑の光が一直線に逃げていくのを捉えていた。

 ユーキのガンドが命中すると、数メートルの火柱と左右への衝撃が広がって土埃が舞う。一見、視界が悪くなったように見えるが、その火柱が見えただけでマリーには十分だった。


「いいぞ、ユーキ! 後はあたしに任せときな!」


 杖に魔力を送り込みながら、マリーは普段とは違う詠唱を始める。


「『――――天に灯る明かりを以て、その意を示せ』」


 それは火の中級汎用呪文。指定した地点に高温の火柱を発生させる魔法だ。ただし、これを扱うには一つ致命的な問題があった。


「無駄だ。水の結界ごしに魔力を通そうとすると、制御が不安定になるぞ」


 公爵がマリーへと忠告する。中級汎用呪文は、自らの近くに魔法を展開してから放つ初級とは異なり、離れた地点で魔法を発動させるのが特徴だ。それ故、魔法として出現していない以上、結界もまた魔力を通すために退くことはない。

 しかし、マリーは不敵な笑みを浮かべながら魔力を杖へと送り込む。


「公爵閣下。あたしはね。細かいこと考えるのが苦手なんだ。だから悪いけど、力ずくでぶち抜くから息子さんにもよろしく言っておいて!」

「――――!? マズイ、結界の魔力を!!」


 マリーは公爵も結界の維持に回ったのを見て遠慮なく、魔法を解き放った。


「『――――すべてを焼き尽くす、大火の御柱よ!!』」

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